いつもの一杯を、飲まなかった日
毎朝のコーヒーを、今日は飲まずに過ごす。すると、頭が痛くなったり、いつもより眠くなったりすることがあります。
コーヒーといえば、飲んだあとに目がさえるイメージがありますよね。ところが、飲まなくなったときにも、体が反応することがあるのです。
その理由を知る手がかりが、「カフェイン離脱」です。少し聞き慣れない言葉ですが、日々の一杯に体が慣れることと関わっています。どんな変化なのか、順に見てみましょう。
急に減らしたあとに起こる、体の反応
カフェイン離脱とは、習慣的にとっていたカフェインを急にやめたり、大きく減らしたりしたあとに現れる、一時的な症状のことです。代表的なのが頭痛で、眠気やだるさ、集中しにくさ、イライラなどが出ることもあります。1
一度に大量に飲んだときの不調とは、起こる場面が違います。それまで繰り返しとっていたカフェインが急に少なくなることで、体が反応しているのです。
こうした症状は、「飲んでいないから調子が悪いはず」という思い込みだけでは説明できません。カフェイン入りかどうかを参加者に知らせずに比べた研究でも、中断したときに頭痛や疲労感が増えることが確かめられています。2
では、飲むのをやめると、体の中では何が変わるのでしょう。まずは、カフェインがあるときのはたらきから見てみます。
カフェインに慣れた体で、何が変わる?
脳には、眠気に関わる「アデノシン」という物質があります。起きている間に増え、細胞の受け取り口に結びつくことで、眠りへ向かうはたらきに関わります。3
カフェインも、その受け取り口に結びつくことができます。ただし、アデノシンと同じはたらきをするのではなく、アデノシンが結びつくのを妨げます。これが、眠気を和らげる仕組みの中心です。4
そして、毎日のようにカフェインをとっていると、体もその状態に適応していきます。受け取り口の数や反応のしやすさが変わることなどが、その仕組みとして考えられています。4
急にカフェインをとるのをやめると、アデノシンのはたらきを妨げる作用が弱まります。ただ、慣れた体がすぐにもとの状態へ戻るわけではありません。
そのため、一時的にアデノシンのはたらきが強く現れることが、離脱に関わると考えられています。「いつもの一杯がない」という変化を、体の側から見た説明です。4
-
01
繰り返しとる
カフェインがある状態が
日々続く -
02
体が慣れる
その状態に合わせて
体も適応する -
03
急にやめる
カフェインが減っても
慣れはすぐには戻らない
体の適応を整理した模式図。受容体の数や、変化にかかる時間を示したものではありません。
頭痛には、脳の血流の変化も関わる
アデノシンが関わるのは、眠気だけではありません。脳の血管を広げるはたらきも持っています。カフェインはこのはたらきも妨げるため、摂取したあとには、脳の血管が収縮し、血流が減る方向の変化が起こります。4
カフェインをとる習慣がある人が急にやめると、血管を広げるはたらきへの抑えも外れます。このときの血流の変化が、離脱による頭痛に関わると考えられています。
実際に、人を対象にした研究では、カフェインを中断したあとに頭痛が現れ、同時に脳の動脈を流れる血液の速さが上がる変化が観察されています。5
カフェインがあると
血管を広げるはたらきを妨げる
血管は収縮する方向に
急にやめると
広げるはたらきへの抑えが外れる
血管・血流の状態が変わる
作用の方向を示す模式図。血管の太さや血流の実測値ではありません。血流の変化だけで、頭痛のすべてを説明する図でもありません。
ただ、血流が変わったという結果だけで、痛みが生じる仕組みのすべてがわかったわけではありません。血管と血流の変化は、頭痛が起きる理由を考えるうえでの手がかりです。
また、離脱時には脳の電気的な活動の変化や、眠気・だるさに関わる変化も報告されています。頭痛だけでなく、ぼんやりする感じも一緒に現れるのは、血管以外のはたらきも変化しているためと考えられます。6
翌日ごろに始まり、数日かけて落ち着く
離脱の症状は、飲むのをやめた瞬間に現れるとは限りません。一般的には、最後にカフェインをとってから半日〜1日ほどで始まり、1〜2日ごろに強くなりやすく、その後、数日かけて落ち着きます。研究をまとめた報告では、症状の持続は2〜9日とされています。1
たとえば、前日の朝を最後にカフェインをとらなければ、翌朝から調子の変化を感じる、という時間の流れです。中断した日と、不調が目立つ日がずれることもあるわけです。
研究をまとめた一般的な目安(注釈1)。症状の強さ・長さには個人差があります。時間に比例した図ではありません。
カフェインそのものが体から減る時間と、慣れた体の反応が落ち着く時間は、同じではありません。体内の量が減ったあとにも、不調が続くことがあります。
ただし、この日数は目安です。症状の強さや長さには個人差があり、ほとんど感じない人もいます。ふだんの摂取量が多いほど症状が強くなりやすい傾向はありますが、量だけで一人ひとりの反応は決まりません。1
「飲むと楽になる」にも理由がある
離脱による頭痛は、カフェインを再びとると和らぐことがあります。さきほどの研究でも、中断後に頭痛が出た人は、再摂取したあとに痛みが治まっています。5
この場合、「飲んだら元気になった」という感覚には、飲まなかったことで生じた不調が和らぐ変化も含まれます。いつもの一杯が、体を普段の感じに戻していることもあるのです。
もちろん、飲まなかった日の頭痛がすべて離脱とは限りません。いつカフェインをとり、いつから頭痛が出たかは、原因を考える一つの手がかりになります。7
飲まない日の頭痛は、カフェインに慣れた体の反応かもしれません。
注釈・出典
Juliano・Griffiths(2004):カフェイン離脱の症状と時間経過を検討したレビュー。57件の実験研究と9件の調査を検討。出版社の要旨に、開始12〜24時間、強さのピーク20〜51時間、持続2〜9日という目安が示されています。本文の「1〜2日ごろ」はピークの時間を日常の言葉で丸めたもの。持続2〜9日は症状が続く期間であり、中断後の決まった日に必ず治るという意味ではありません。 ↩1 ↩2 ↩3
Silvermanら(1992):カフェインを二重盲検で中断した研究(N Engl J Med、doi: 10.1056/NEJM199210153271601)。健康な成人62人を対象に、通常の摂取量に相当するカフェインとプラセボを比較。中断時に頭痛や疲労感などが増えました。全員が症状を経験したという結果ではありません。 ↩
NIH/NHLBI「What Makes You Sleep?」。アデノシンの増加と睡眠への欲求を参照。睡眠には体内時計なども関わります。 ↩
「受け取り口」はアデノシン受容体です。Addicottら(2009):日常のカフェイン摂取と脳血流の研究 の序論・考察を参照。反復摂取への適応には受容体の増加や感受性の変化が考えられていますが、本文は、人の脳内で受容体数が増えることをこの研究が直接測定した、という説明ではありません。離脱の詳しい機序には未解明な点があり、体の適応についての説明と、実測された血流の変化を区別しています。 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4
Couturierら(1997):離脱と頭痛・脳血流速度の研究(Cephalalgia、doi: 10.1046/j.1468-2982.1997.1703188.x)。頭痛の既往のない20人で、通常摂取・中断・再摂取を比較。中断24時間後に10人が中等度〜重度の頭痛を経験し、再摂取後1時間以内に治まりました。測定した血流速度は血流量そのものではなく、頭痛の全機序を証明する結果でもありません。本文はカフェインを頭痛一般の治療として勧めるものではありません。 ↩1 ↩2
Sigmonら(2009):カフェイン離脱時の脳血流速度・脳波・主観的な変化の研究。16人を対象に、1日400mgのカフェインを14日以上とる条件と、プラセボを14日以上とる条件を比較。中断時の血流速度、脳波、疲労感などに変化がありました。小規模な研究であり、脳波の変化が個々の症状を直接引き起こしたと断定していません。 ↩
頭痛の診断では、摂取と発症の時間関係に加え、ほかの原因で説明できないかも確認します。国際頭痛学会 ICHD-3「Caffeine-withdrawal headache」 を参照。突然の激しい頭痛、手足の力が入らない・意識がおかしいといった症状を伴う頭痛は、離脱と決めつけず、直ちに医療機関へ。悪化する・長引く頭痛も医師に相談してください。受診の目安は NIH/NINDS「Headache」 を参照。 ↩