コーヒーのあと、なんだか落ち着かない
コーヒーを飲んだあと、胸がドキドキしたり、そわそわして落ち着かなくなったりすることはありませんか。
目を覚ましたくて飲んだ一杯なのに、気持ちまで急かされるように感じることもあります。眠気がとれるだけなら、心臓や気持ちにまで変化が出るのは不思議ですよね。
この「ソワソワ」には、カフェインが体の中で起こす変化が関わっています。何が起きているのか、順に見てみましょう。
「ソワソワ」は、カフェインで起こりうる反応
米国食品医薬品局(FDA)は、カフェインをとりすぎたときの症状として、心拍が速くなる、動悸、不安感、そわそわした落ち着かなさなどを挙げています。寝つきにくさや胃の不快感と並ぶ、カフェインの反応の一つです。1
こうした変化は、気のせいだけで起きているわけではありません。カフェイン入りかどうかを参加者に知らせずに比べた研究でも、カフェインをとったあとに不安の感じ方が強まることが確かめられています。2
では、目を覚ますための成分が、なぜ心臓や気持ちにまで影響するのでしょう。まずは、カフェインが脳で何をしているかから見てみます。
脳のブレーキが外れると、体も「活動モード」に
脳には、眠気に関わる「アデノシン」という物質があります。起きている間に増え、細胞の受け取り口に結びつくことで、眠りへ向かうはたらきに関わります。脳のはたらきにかかる、ブレーキのような役割です。3
カフェインは、この受け取り口に結びつき、アデノシンがはたらくのを妨げます。ブレーキがかかりにくくなるため、脳は起きた状態に傾きます。これが、眠気が和らぐ仕組みの中心です。3
変化は、脳の中だけにとどまりません。ふだんカフェインをとらない人を対象にした研究では、カフェインを飲んだあと、アドレナリンなど、体を活動に向かわせる物質が血液中で増え、血圧も上がりました。4
アドレナリンは、緊張やストレスを感じたときにも増える物質の一つです。こうした物質は、脳をさえた状態にし、脈を速める方向にはたらきます。カフェインのあとに胸のドキドキを感じるのには、この変化が関わっていると考えられます。5
カフェインをとる
アデノシンのはたらきが
妨げられる
起きた状態に傾く
アドレナリンなどが
血液中で増える
血圧が上がり、
脈が速まる方向に
本文の研究を整理した模式図。脳と体の変化の順番や、どちらがどちらの原因かを示すものではありません。変化の大きさは量や人によって異なります。
胸のドキドキと、落ち着かない気持ちは重なる
「動悸」とは、心臓の拍動がいつもと違って感じられ、気になる状態のことです。速い、強くドクドクする、脈が乱れる、胸の中で羽ばたくようだなど、感じ方はさまざまです。6
一方、強い不安を感じるときにも、体には変化が起こります。心臓がドキドキする、汗をかく、震えるといった変化は、急に強い不安に襲われる発作でもよく見られるものです。7
カフェインのあとの体の変化は、こうした不安のときの変化とよく似ています。どちらも、体を活動に向かわせる物質が増え、脈が速まる方向の変化です。5
そしてカフェインは、体の変化だけでなく、不安な気持ちそのものを強めることもあります。胸と気持ちに同時に起こる変化を、私たちは「ソワソワ」とひとまとめに感じているのかもしれません。
胸に感じる変化(動悸)
- 速い
- 強くドクドクする
- 脈が乱れる
- 羽ばたくように感じる
気持ちの変化
- 不安の感じ方が強まる
- 落ち着かない
ひとまとめに
感じられることも
感じ方の例を整理した図。どの変化がどのくらい起こるかは人によって違い、カフェインのあとに必ず両方が起こるわけではありません。
ただし、動悸の原因はカフェインだけではありません。睡眠不足やストレス、アルコールや薬、体の病気が関わることもあります。飲んだかどうかだけで、原因を決めつけることはできません。6
「多めの一杯」「久しぶりの一杯」で出やすい
同じコーヒーでも、いつもソワソワするわけではありません。出やすさには、とった量と、飲み慣れが関わります。
健康な人を対象にした研究をまとめた分析では、カフェインの量が多いほど、不安の高まりが大きい傾向が見られました。400mg以上をとった条件では、不安の高まりがよりはっきり現れています。小さめのコーヒー(150mL)なら、4〜5杯分にあたる量です。8
飲み慣れについては、さきほどの研究グループが続けて調べています。ふだんカフェインをとらない人で上がったアドレナリンや血圧は、毎日とり続けると、数日のうちにほとんど上がらなくなりました。4
不安の感じ方でも、日常的によくとる人は、ほとんどとらない人に比べて反応が小さい傾向が報告されています。2
とった量
多いほど、不安の高まりが大きい傾向
400mg以上をとった条件で、よりはっきり現れた
飲み慣れ
久しぶりの一杯で出やすい
毎日とり続けると、アドレナリンや血圧の上昇は数日でほとんど見られなくなった
本文の研究結果を整理した模式図。波の高さは反応の傾向を表したもので、測定した値ではありません。飲み慣れていても、反応がなくなるとは限りません。
そのため、ふだんあまり飲まない人が久しぶりに飲んだときや、いつもより多く飲んだときに、ソワソワを感じやすいと考えられます。ただし、飲み慣れていても反応がなくなるとは限りません。体質による違いもあり、同じ量でも感じ方は人それぞれです。2
コーヒーのあとのソワソワは、体と気持ちが目覚めたしるしかもしれません。
注釈・出典
FDA「Spilling the Beans: How Much Caffeine is Too Much?」(2024年8月28日更新)。とりすぎたときの症状として、心拍の増加、動悸、血圧の上昇、不眠、不安、jitters(そわそわした落ち着かなさ)、胃の不調、吐き気、頭痛を挙げています。感受性や体から減る速さに大きな個人差があることも参照。 ↩
Rogersら(2010):カフェインの不安・覚醒作用と遺伝子の型・日常の摂取量の関連を調べた研究(Neuropsychopharmacology、doi: 10.1038/npp.2010.71)。ほとんど・少ししかとらない162人と、中程度・多くとる217人を対象に、二重盲検でカフェイン(100mg、90分後に150mg)とプラセボを比較。日常的によくとる人では、遺伝子の型にかかわらず不安の反応が小さい一方、特定の型の人では不安の反応が大きい傾向がありました。日常の摂取量を無作為に割り付けた研究ではありません。大学の研究情報ページに掲載された要旨で確認。 ↩1 ↩2 ↩3
「受け取り口」はアデノシン受容体です。アデノシンと睡眠への欲求の関係は NIH/NHLBI「What Makes You Sleep?」、カフェインが受容体でアデノシンのはたらきを妨げる点は Addicottら(2009) の序論を参照。「ブレーキ」は仕組みを簡略化したたとえで、睡眠には体内時計なども関わります。 ↩1 ↩2
Robertsonら(1978):カフェインと血漿レニン活性・カテコールアミン・血圧の研究(N Engl J Med、doi: 10.1056/NEJM197801262980403)。ふだんコーヒーを飲まない健康な若年者9人に、二重盲検でカフェイン250mgとプラセボを比較。1時間後にアドレナリン(エピネフリン)が約3倍、ノルアドレナリンが75%増え、平均血圧が14/10mmHg上昇しました。心拍数はわずかに下がったあと上がる変化でした。慣れについては、同じ研究グループの続く研究 Robertsonら(1981)(J Clin Invest、doi: 10.1172/JCI110124)を参照。二重盲検でカフェインを毎日とる期間を設け、1〜4日で血圧・心拍数・アドレナリンなどの変化にほぼ完全な慣れが生じました。いずれも小規模な研究です。1978年の論文は出版社ページを取得できず検索結果に掲載された原著要旨で、1981年の論文は出版社ページの要旨で確認し、その対象人数・投与量は確認できていません。 ↩1 ↩2
MedlinePlus「Stress and your health」(2026年5月15日レビュー)。ストレスを受けると体がホルモンを出し、脳の覚醒や脈の増加などが起こるという説明を参照。カフェインのあとの動悸を、アドレナリンだけで説明できると断定するものではありません。 ↩1 ↩2
NHS「Heart palpitations」(2026年3月17日レビュー)。動悸の感じ方と、運動・睡眠不足・ストレスと不安・薬・アルコール・カフェイン・ニコチンなどの原因、貧血や甲状腺、心臓のリズムの問題が関わる場合を参照。動悸が繰り返す・数分以上続く、心臓の病気や家族歴がある場合は医療機関へ相談を。胸の痛み、息切れ、気が遠くなる・失神を伴う場合や、動悸が治まらない場合は、直ちに医療機関を受診してください。 ↩1 ↩2
NIMH「Panic Disorder: When Fear Overwhelms」(2025年改訂)。パニック発作で起こる体の変化として、心臓のドキドキ、発汗、震えなどを参照。本文はカフェインの反応を不安の病気と同じものとして扱うものではありません。なお、パニック症のある人では、コーヒー約5杯分に相当する量のカフェインで、発作が起こりやすいことも報告されています(Klevebrant・Frick(2022)、Gen Hosp Psychiatry、検索結果に掲載された要旨で確認)。 ↩
Liuら(2024):カフェイン摂取と不安のメタ分析(Front Psychol、doi: 10.3389/fpsyg.2024.1270246)。健康な人を対象とした8件(546人、無作為化比較試験7件・横断研究1件)を統合。400mg未満でも不安の評価は上がり、400mg以上ではより大きな差がありました。研究間のばらつきが大きく、件数も少ないため、量と反応の関係を細かく示すものではありません。ここでの400mgは研究でとった量で、一日を通した摂取の目安(EFSA)とは別の数字です。150mLのコーヒーを約90mgとした換算は、このシリーズの第2回と同じ条件です。 ↩