豆のなかから、カフェインだけを抜く
デカフェは、カフェインを取り除いたコーヒーです。日本のコーヒーの表示のルールでは、カフェインを90%以上取り除いたものが、カフェインレスコーヒーとされています。1
けれど、コーヒー豆に入っているのはカフェインだけではありません。焙煎したときの香りのもとになる、炭水化物やたんぱく質なども含まれています。2
それらを残したまま、カフェインだけをどうやって抜き出しているのでしょう。作り方を順に見てみます。
どの方法も、焙煎する前の生豆で行う
カフェインを取り除くのは、焙煎する前の生豆の段階です。生豆のカフェインを外へ溶かし出し、カフェインが減った生豆を、そのあと焙煎します。23
方法による大きな違いは、カフェインを「何に」溶かし出すかです。使われるのは、有機溶媒、水、二酸化炭素の3つ。二酸化炭素には液体で使う方法と「超臨界」という状態で使う方法があり、合わせて4つの方法に分けられます。3
生豆
カフェインを溶かし出す役
焙煎へ
本文の説明を整理した模式図。4つの方法の分け方は、注釈3の資料の整理に従っています。
最初に広まったのは、有機溶媒を使う方法
カフェインがよく溶ける、有機溶媒と呼ばれる薬品の液体に、生豆のカフェインを溶かし出す方法です。
デカフェの歴史はこの方法から始まりました。1900年にベンゼンを使う方法が提案され、1912年にはアメリカで初めてデカフェが商品として売り出されています。1970年代までは、クロロホルムやジクロロメタン、酢酸エチルなどを使う方法が主流でした。2
その後、香りや味が失われること、溶媒が豆に残ることへの懸念から、水や二酸化炭素を使う方法へ切り替わっていきます。日本では、有機溶媒でカフェインを取り除く方法は禁止されていると説明されています。24
水を使う方法は、溶け出したものを選り分ける
生豆を水に浸すと、カフェインが水へ溶け出します。ただ、水に溶け出すのはカフェインだけではありません。コーヒーの香りや味のもとになる成分も、一緒に出てきます。5
そこで、溶け出したもののなかから、カフェインだけを選り分けます。溶け出した液を活性炭などに通してカフェインを取り除き、残りの成分を含んだ液を生豆に戻す、というやり方です。2
生豆を水に浸す
カフェインと一緒に、ほかの成分も溶け出す
活性炭などに通す
液からカフェインだけを取り除く
残りの成分を含む液を戻す
生豆の側へ
液は生豆の側へ戻り、カフェインだけが取り除かれる
本文の一般的な流れを示した模式図。あらかじめほかの成分を溶かした液を使う方法では、カフェインを取り除いた液を、次の生豆を浸すのにくり返し使います。
あらかじめ、カフェイン以外の成分が溶け込んだ液を用意しておく方法もあります。この液に新しい生豆を浸すと、ほかの成分はすでに液に溶け込んでいるため、豆から移っていくのは主にカフェインになります。液は活性炭のフィルターでカフェインを取り除き、繰り返し使われます。5
二酸化炭素は、圧力をかけて「溶かす役」にする
ふだんは気体の二酸化炭素も、圧力をかけると液体になります。さらに温度と圧力を上げると、「超臨界」と呼ばれる状態になります。液体のように物を溶かし、気体のように広がりやすい、両方の性質を持った状態です。6
液体の二酸化炭素を使う方法は温度25℃・圧力6MPa程度、超臨界の二酸化炭素を使う方法は温度31℃・圧力7.3MPa以上で処理します。どちらも、水を含ませた生豆に二酸化炭素を触れさせて、カフェインを溶かし出します。3
カフェインを溶かし込んだ二酸化炭素は、カフェインを取り除いてから、また処理に使われます。超臨界の二酸化炭素では、生豆の香り成分は溶け出すものの、焙煎で香りを生むのに欠かせない炭水化物やたんぱく質には影響しない、と説明されています。236
4つの方法は、「溶かし出す役」が違う
4つの方法を並べると、どれも生豆のなかのカフェインを外へ溶かし出し、豆は焙煎へ回すという流れは同じです。違うのは、カフェインを溶かし出す役を、有機溶媒・水・液体の二酸化炭素・超臨界の二酸化炭素のどれにするかです。
溶かし出す役が変わると、カフェインと一緒に出てくる成分や、そこからカフェインだけを分ける手順も変わります。
その違いは、それぞれの長所と注意点にも表れます。有機溶媒は、カフェインがよく溶ける一方で、香りや味が失われること、溶媒が残ることが懸念されてきました。水を使う方法は薬品を使いませんが、ほかの成分も一緒に溶け出すため、それを豆へ戻したり、あらかじめ液に溶かしておいたりする工夫が欠かせません。25
二酸化炭素のうち、超臨界の状態で使う方法は、焙煎で香りを生む炭水化物やたんぱく質に影響しないと説明されています。ただし高圧のガスを使うため、設備に費用がかかるとされます。液体で使う方法は、それより低い温度と圧力で処理できる一方、処理に時間がかかるとされます。23
1970年代まで主流
カフェインがよく溶ける
香りや味が失われる、溶媒が残る懸念。日本では禁止されていると説明されている
活性炭などでカフェインだけを選り分ける
薬品を使わない
ほかの成分も溶け出すので、戻す工夫が要る
温度・圧力
25℃・6MPa程度超臨界より低い温度・圧力
処理に時間がかかるとされる
温度・圧力
31℃・7.3MPa以上焙煎で香りを生む炭水化物・たんぱく質に影響しないとされる
高圧ガスの設備に費用がかかるとされる
本文の説明を並べた図。温度・圧力と、二酸化炭素を使う方法の注意点は、注釈3の資料によります。味の優劣を比べたものではありません。
日本では有機溶媒を使う方法は禁止されていると説明されているので、その説明のとおりなら、日本で手に取るデカフェは、水か二酸化炭素を使う方法で作られたものです。製法の違いは、豆にどの成分が残るかの違いにつながります。ただ、それが実際の味にどう表れるかまでは、今回確かめた資料からは言い切れません。47
豆は残して、カフェインだけを溶かし出す。4つの方法の違いは、その役を何に任せるかにあります。
注釈・出典
味の素AGF「カフェインレスとは?デカフェ・ノンカフェインとの違い」(2025年9月30日更新)、ネスレ日本「カフェインレスとは?デカフェとの違い」(2024年11月28日更新)。全日本コーヒー公正取引協議会「レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約」による定義として、カフェインを90%以上除去したコーヒーをカフェインレスコーヒーとし、デカフェも同じ基準としています。規約本文はPDFのため取得できず、規約を引用しているこの2社の解説で確認しました(このシリーズの第11回と同じ確認経路)。 ↩
塩野貴史「『デカフェ』と『飲料としての品質』は両立できるのか?」『化学と生物』56巻6号(2018年、日本農芸化学会)。デカフェの歴史(1900年のベンゼンによる方法の提案、1912年の米国での発売、1970年代まで有機溶剤法が主流だったことと切り替わりの理由)、水処理法(水で溶出させ、活性炭などの吸着剤でカフェインを除去した後、浸出水を生豆に戻す)、超臨界二酸化炭素抽出法(生豆由来の香気は抽出されるが、焙煎による香気付与に不可欠な炭水化物やたんぱく質には影響しない)の記述。 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8
超臨界技術センター「デカフェ技術」。カフェイン除去の方法を、有機溶媒抽出法・水処理法・液体二酸化炭素抽出法・超臨界二酸化炭素抽出法の4つに整理し、液体二酸化炭素は25℃・6MPa程度、超臨界二酸化炭素は31℃・7.3MPa以上の条件としています。同社は超臨界二酸化炭素によるカフェイン除去を行う企業です。本文の「4つの方法」はこの整理に従いました。また同ページは、液体二酸化炭素による方法は処理時間が長くなること、超臨界二酸化炭素による方法は高圧ガスを使うため設備コストがかかることを挙げています。ほかの方法と比べた長所の記述(処理時間、環境負荷、風味など)は、事業者自身の比較のため本文に使っていません。 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
注釈2の論文は、茶のカフェイン除去を説明する中で、有機溶媒による方法を「日本では禁止されている」としています。注釈3・6の資料は、コーヒーについて、日本では有機溶媒による方法が禁止されていると説明しています(注釈3の資料は「日本では輸入が禁止されている」としています)。根拠となる法令・添加物リストの該当箇所は、今回は直接確認できていません。本文の「日本で手に取るデカフェは、水か二酸化炭素を使う方法で作られたもの」は、これらの説明から導いたもので、店頭の商品を調べた結果ではありません。 ↩1 ↩2
Swiss Water Decaf「Our Coffee Decaffeination Process」。水を使う方法の一つを行う企業の説明。生豆の成分を含み、カフェインを含まない液(Green Coffee Extract)に生豆を浸し、カフェインだけを豆の外へ移したうえで、液を炭のフィルターに通してカフェインを取り除き、繰り返し使うと説明しています。 ↩1 ↩2 ↩3
リケラボ編集部「おいしいカフェインレスコーヒーをつくる鍵は"超臨界技術"」(2023年7月25日)。超臨界流体を気体の拡散性と液体の溶解性をあわせ持つ状態とし、二酸化炭素では臨界温度31.1℃・臨界圧力7.38MPaを超えた領域としています。水分を含ませた生豆に超臨界二酸化炭素を接触させてカフェインを溶かし出し、二酸化炭素は再利用する工程も説明しています。 ↩1 ↩2
製法ごとの味の違いを、同じ豆・同じ条件で比べた研究や公的な資料は、今回確認した範囲では見つかりませんでした。販売店・事業者の解説には製法ごとの風味の説明がありますが、自社の製法をすすめる立場のものが多いため、本文には使っていません。注釈2の論文は、コーヒーの水処理法について工程を説明していますが、香味の評価は述べていません。 ↩