「1日200mgまで」は、安心の線?
妊娠がわかったときや授乳中に、毎日のコーヒーをどうしようかと考える。そんな場面があるかもしれません。
よく目にするのは「1日200mgまで」という数字です。ただ、200mgを境に、安全と危険がはっきり分かれるわけではありません。研究の結果にまだ決着がついていない中で、公的機関が示している目安です。
では、この数字はどこから来ていて、研究では何がわかっているのでしょう。目安の中身から順に見ていきます。
一般的な目安は1日200mg。でも、国によって違う
欧州食品安全機関(EFSA)は、妊娠中の人が1日を通して200mgまでとるカフェインなら、おなかの赤ちゃんに安全上の懸念は生じないと評価しています。授乳中についても、同じ200mgまでと評価しています。12
イギリスの国民保健サービス(NHS)も、妊娠中は1日200mgまで。一方、カナダは妊娠中・授乳中とも300mgまでとしています。世界保健機関(WHO)は、1日300mg以上とっている妊婦に、減らすよう呼びかけています。23
日本では、はっきりした基準や、具体的な量の目安は示されていません。国や機関によって、数字は200〜300mgの間で分かれています。2
200mgを、身近な量に置き換えてみます。小さめのカップ(150mL)のコーヒーは約90mgなので、2杯で約180mg。1日2杯ほどが、200mgに近い量です。2
同じゼロ起点・同じ縮尺。棒は各機関が示す1日の目安の量、WHOは「この量以上なら減らす」という呼びかけの範囲を網掛けで示しています。コーヒーは日本の成分表の値からの計算例です(注釈1〜3)。
なぜ妊娠中は、別に考えるの?
大人のための目安とは別に、妊娠中の数字があるのはなぜでしょう。理由の一つは、カフェインが体から抜けるまでの時間です。
ある研究では、カフェインが体の中で半分に減るまでの時間が、男性や妊娠していない女性では平均約3時間でした。妊娠中の女性では平均約8時間と、倍以上の長さでした。4
同じゼロ起点・同じ縮尺。1981年の1つの研究(要旨)の値で、唾液で測っています。一人ひとりの時間を予測するものではありません(注釈4)。
もう一つは、おなかの赤ちゃんとの関係です。カフェインは胎盤を通って、赤ちゃんにも届きます。ところが、カフェインを分解するおもな酵素は、胎盤にも赤ちゃんの体にもありません。5
赤ちゃんに届くカフェインの量は、妊娠している人の体がどれだけ速く分解するかで左右されます。その分解が遅くなるので、同じ1杯でも、赤ちゃんがカフェインにさらされる時間は長くなると考えられています。56
研究でわかっていること、わかっていないこと
では、実際に赤ちゃんへの影響はあるのでしょうか。
妊娠中の人の飲食と、生まれた赤ちゃんを調べた研究では、カフェインが多い人ほど、赤ちゃんが小さめに生まれる傾向がありました。イギリスの約2,600人を調べた研究では、関連が見られなくなる量の境目は見つかりませんでした。5
アメリカの約2,000人の研究では、200mgより少ない量でも、生まれたときの体重がわずかに軽い傾向が報告されています。NHSも、カフェインのとりすぎが流産や死産の可能性の高まりと関係づけられているとしています。37
一方で、違う結果もあります。1日3杯以上コーヒーを飲む妊娠中の人に、妊娠の後半にかけてデカフェへ切り替えてもらった試験では、1日のカフェインが約180mg減っても、出生体重に差は出ませんでした。8
カフェインが多いほど、赤ちゃんが小さめに生まれる傾向
関連が見られなくなる量の境目は見つからなかった(注釈5)
200mgより少ない量でも、体重がわずかに軽い傾向
妊娠初期の血液中のカフェインなどを調べた(注釈7)
デカフェに切り替えて約180mg減らしても、出生体重に差は出なかった
1日3杯以上飲む人が、妊娠20週より前から切り替えた(注釈8)
研究の種類・人数・結果の要点を並べた図です。影響の大きさを比べるものではありません。
暮らしを調べる研究では、カフェインの量のほかにも、睡眠など飲む人どうしの違いが結果に混ざりえます。今のところ、カフェインが原因かどうか、どのくらいの量からなのかは、はっきりしていません。6
だからこそ、「200mgまでなら大丈夫」「超えたら危ない」とは言い切れません。目安は、はっきりしない部分を含めて、今ある研究から各機関が判断した数字です。
数えるのは、コーヒーだけではない
EFSAの200mgは、コーヒーだけでなく、1日に口にするものすべてからのカフェインを合わせた量です。1
紅茶は小さめのカップ(150mL)で約45mg、せん茶は約30mg。コーラやチョコレートにも含まれます。コーヒーは1杯でも、ほかの飲み物を合わせると、合計は増えていきます。飲み物ごとの量は、このシリーズの第2回にまとめています。23
授乳中は、生まれて間もない赤ちゃんほど、カフェインの分解が遅い
出産すると、妊娠中に延びていたカフェインの抜ける時間は、多くの人で1か月以内に元に戻っていました。授乳中に目を向けたいのは、今度は赤ちゃんの側です。4
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、カフェインは母乳を通して、少しだけ赤ちゃんに移ると説明しています。1日300mg以下なら、ふつうは赤ちゃんに悪い影響はないとしています。9
一方で、とても多い量では、赤ちゃんの不機嫌や寝つきの悪さ、落ち着かない様子が報告されています。また、早産の赤ちゃんや、生まれて間もない赤ちゃんは、カフェインの分解が遅いため、さらに控えることも考えてよいとしています。9
アメリカ食品医薬品局(FDA)は、妊娠中や授乳中の人は、カフェインの影響を受けやすくなる場合があるとして、かかりつけの医師に相談するようすすめています。2
1日200mgは、「ここまでなら安心」ではなく、
控えめにするための目安。
注釈・出典
EFSA「Caffeine」(2015年5月27日)。「Caffeine intakes from all sources up to 200mg per day consumed throughout the day do not raise safety concerns for the foetus.」2015年の科学的意見の要点で、妊娠中はすべての由来からのカフェインを合わせた量で評価されています。授乳中についてはこのページに記載がなく、意見書の本体(Wiley)は取得できませんでした。授乳中も200mgまでという評価は、注釈2の農林水産省の資料で確認し、注釈6の総説にも同じ記述があります。 ↩1 ↩2
農林水産省「カフェインの過剰摂取について」(令和8年8月28日更新)。各国の目安として、EFSA(妊婦及び授乳婦は1日200mgまで)、カナダ(妊婦や授乳婦は1日300mgまで)、オーストラリア・ニュージーランド(妊婦や授乳婦は1日200mgまで)、WHO(2016年、1日300mg以上の高カフェイン摂取の妊婦で出生時の低体重や流産・死産のリスクが高まる可能性があるとして、摂取量の削減を注意喚起)、FDA(妊婦・授乳婦・妊娠予定の方や服薬している方は、カフェインの摂取による影響を受けやすくなる場合があるため、かかりつけ医に相談することが推奨されている)を紹介しています。日本では明確な基準や具体的な摂取量の目安は示されていません。コーヒー100mLあたり60mg、紅茶30mg、せん茶20mgは日本食品標準成分表2020(八訂)の値で、150mLあたりの量は同じ濃さを仮定した計算です(このシリーズの第2回と同じ条件)。カナダの目安は、カナダ保健省のページでも300mgであることを確認しました。 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
NHS「Foods to avoid in pregnancy」(2026年6月15日レビュー)。妊娠中は1日200mgを超えないこととし、カフェインのとりすぎは流産・死産の可能性の高まりと関連づけられているとしています。カフェインを含むものとして、紅茶・コーラ・エナジードリンク・チョコレートなどを挙げています。 ↩1 ↩2 ↩3
Knutti R, Rothweiler H, Schlatter C. Effect of pregnancy on the pharmacokinetics of caffeine. European Journal of Clinical Pharmacology. 1981;21(2):121–126. 唾液で測った半減期は、成人男性と妊娠していない女性で平均3.4時間(2〜5時間、25人)、妊娠中の女性で平均8.3時間(3〜16時間、57人)。出産後は多くの人で1か月以内に元の値に戻ったとしています。1981年の研究で、確認できたのは要旨のみです。同じ著者らの1982年の報告(要旨)では、妊娠の最後の4週間で平均10.5時間まで延びたとしています。本文の数値は個人の予測値ではありません。このシリーズの第3回で紹介した健康な成人の平均約4時間(EFSAの説明)とは、別の資料の値です。 ↩1 ↩2
CARE Study Group. Maternal caffeine intake during pregnancy and risk of fetal growth restriction: a large prospective observational study. BMJ. 2008;337:a2332. イギリスの妊娠中の女性2,635人の観察研究。序文で、カフェインは胎盤を自由に通過し、分解のおもな酵素(CYP1A2)は胎盤にも胎児にもないため、胎児側に届く量は母体の分解に左右されると説明しています。1日100mg未満と比べた胎児発育不全のオッズ比は、100〜199mgで1.2(95%信頼区間0.9〜1.6)、200〜299mgで1.5(1.1〜2.1)、300mg以上で1.4(1.0〜2.0)。100〜199mgの差は統計的にははっきりしていません。著者らは、関連がなくなる摂取量は見つからなかったとしています。 ↩1 ↩2 ↩3
Temple JL ほか. The Safety of Ingested Caffeine: A Comprehensive Review. Frontiers in Psychiatry. 2017;8:80. 妊娠中の分解の低下が胎児のカフェインへの曝露を増やすこと、妊娠中の睡眠不足がカフェインの量と出生体重の両方に関わりうることを述べています。授乳中の人について、EFSAが1回200mg以下・継続的な200mg以下の摂取で乳児に安全上の懸念はないと結論したとも記しています(ただし、この記述に付いた参考文献は飼料についての別の意見書でした)。この総説が妊娠中の半減期に付けている参考文献は内容と対応しなかったため、半減期の数値は注釈4の原著の要旨から採りました。 ↩1 ↩2
NICHD「Moderate daily caffeine intake during pregnancy may lead to smaller birth size」(2021年3月25日)と、論文 Gleason JL ほか. JAMA Network Open. 2021;4(3):e213238(要旨)。アメリカの妊娠中の女性2,055人について、妊娠初期の血液中のカフェインと飲料の自己申告を調べた観察研究。血中濃度が最も高い群の赤ちゃんは、出生体重が平均84g軽かったとしています。著者らは、1日200mgを大きく下回る量でも胎児の発育の低下と関連したと結論しています。リリースでは「slightly smaller babies」(わずかに小さい赤ちゃん)と表現し、1日約50mgの群で約66g軽かったと説明しています。論文本体は読めていません。 ↩
Bech BH, Obel C, Henriksen TB, Olsen J. Effect of reducing caffeine intake on birth weight and length of gestation: randomised controlled trial. BMJ. 2007;334(7590):409. デンマークで、1日3杯以上コーヒーを飲む妊娠20週未満の女性1,207人を、カフェイン入りとデカフェのインスタントコーヒーに無作為に分けた試験(要旨で確認)。デカフェ群は1日のカフェインが182mg少なく、出生体重の差は16g(95%信頼区間−40〜73g)、妊娠期間の差も小さく、妊娠後半の中程度の減量は出生体重・妊娠期間に影響しなかったと結論しています。流産や妊娠初期の影響を調べた試験ではありません。 ↩
CDC「Maternal Diet」(2026年8月25日レビュー)。低〜中程度の量を1日300mg以下(コーヒー約2〜3杯)、とても多い量を1日コーヒー約10杯以上としています。CDCのページの杯数は、この記事で使っている150mLのカップとは大きさが異なる可能性があるため、本文では杯数での言い換えを省きました。早産児や生まれて間もない乳児はカフェインの分解が遅いため、母親はさらに少なくすることを考えてもよいとしています。 ↩1 ↩2