「4つの時期」は、何を区切った名前?
生理の予定を確かめるときなどに、「卵胞期」「黄体期」といった言葉を目にすることはありませんか。どちらも生理周期の中の時期を表す名前ですが、体の中では何が違うのでしょうか。
生理周期は、生理(月経)が始まった日を1日目として、次の生理が始まる前の日までを数えます。1
この周期に関わるのが、おもに卵巣から分泌される、エストロゲンとプロゲステロンという2つの女性ホルモンです。エストロゲンは子宮の内側をおおう膜(子宮内膜)を厚くし、プロゲステロンはその内膜を妊娠に備えた状態に整えます。23
「卵胞期」「黄体期」などの名前は、卵巣や子宮で起きる変化に応じて、生理周期を分けたものです。まずは、それぞれの時期がどうつながっているかを見ていきます。
月経期と卵胞期は、一部が重なる
この記事では、生理周期を月経期・卵胞期・排卵期・黄体期の4つの名前で説明します。3
ただし、4つの時期が別々に順番に来るわけではありません。月経期は生理が起きている期間、卵胞期は卵巣で卵胞が育つ期間を指します。卵胞期も生理の1日目から始まるため、月経期は卵胞期の始めの数日と重なります。35
卵胞期のあとに排卵期、黄体期が続きます。この流れに沿って、卵巣と子宮で起きていることを見ていきます。4
28日の周期を例にした模式図です。生理の日数や各時期の長さは、人や周期によって変わります。排卵期は1日分の幅で描いていますが、MSDマニュアル家庭版では通常16〜32時間とされています(注釈4)。
生理の始まりから、エストロゲンが増えていく(月経期・卵胞期)
生理が始まるころ、エストロゲンとプロゲステロンは、どちらも低い状態です。前の周期の終わりに2つが下がったことで、子宮の内側をおおう膜(子宮内膜)がはがれ、出血とともに体の外へ出ていきます。これが生理です。45
同じころ、卵巣では、卵子を包む袋(卵胞)が育ち始めます。卵胞期という名前は、この卵胞が育つことから来ています。5
卵胞が育つにつれて、エストロゲンは少しずつ増えていきます。エストロゲンのはたらきで、子宮内膜は、また厚くなっていきます。いちばん厚くなるのは、卵胞期の終わりごろです。この間、プロゲステロンは低い状態が続きます。135
エストロゲンが高まったあと、排卵が起きる(排卵期)
エストロゲンは、排卵の直前に大きく高まります。5
続いて、脳の下垂体から出る黄体形成ホルモン(LH)が急に増えます。これが合図になって、育った卵胞の壁がくずれ、卵子が卵巣から出ます。これが排卵です。LHが急に増えるあいだ、エストロゲンはいったん下がりますが、プロゲステロンは増えていきます。1
排卵期は、MSDマニュアル(家庭版)では通常16〜32時間とされています。4つの時期といっても、長さはそろっていません。4
排卵のあとは、プロゲステロンが増える(黄体期)
卵子が出たあとの卵胞は、「黄体」に変わります。黄体はおもにプロゲステロンを出し、その量は増えていきます。最も多くなるのは、排卵の6〜8日後ごろです。エストロゲンも、黄体期の半ばにもう一度高まります。15
プロゲステロンのはたらきで、厚くなった子宮内膜は、妊娠に備えた状態へ整えられていきます。また、プロゲステロンには体温を上げる作用があり、黄体期には基礎体温が少し高くなります。134
妊娠しなかった場合、黄体は約14日で退化します。すると、エストロゲンとプロゲステロンが急に下がります。とくにプロゲステロンが下がることが合図になって、子宮内膜がはがれ始めます。次の生理が始まり、ここが次の周期の1日目になります。456
28日の周期を例に、増減の向きを示した模式図です。測定値の波形ではなく、2本の線の高さは2つのホルモンの量を比べるものではありません。時期の分け方は、排卵を境にした2つで示しています(注釈5)。
周期の長さの違いに、最も関わるのは卵胞期
生理周期の長さは、人によって違い、同じ人でも周期ごとに変わることがあります。厚生労働省の研究班が監修する「ヘルスケアラボ」は、25〜38日であれば正常としています。78
その長さの違いに、いちばん大きく関わっているのは卵胞期です。141人の周期を調べた研究でも、周期のばらつきに最も関わっていたのは卵胞期でした。これに対して黄体期は、長さが最も一定の時期で、平均約14日とされています。18
そのため、排卵は周期のちょうど真ん中とは限りません。黄体期を14日とすると、排卵は次の生理のおよそ2週間前にあたる計算です。1
同じ縮尺。黄体期を平均の14日として描いた計算の例で、実測ではありません。黄体期の長さにも、人や周期による幅があります(注釈1・5)。
ホルモンの変化への反応には、個人差がある
ホルモンの増減に伴う心や体の変化も、誰にでも同じように現れるわけではありません。
研究をまとめた報告は、周期に伴うホルモンの変化への感じやすさには、人によって大きな違いがあるとしています。ふつうの範囲のホルモンの変化に、強く反応する人が一部にいることも、研究で示されています。5
次回は、生理前に現れる心と体の不調「PMS」について、症状が出る時期や特徴をお話しします。
4つの時期は、2つのホルモンの増減でつながる一続きの流れ。
注釈・出典
MSDマニュアル プロフェッショナル版「Female Reproductive Endocrinology」(Jessica E. McLaughlin 著、2025年5月改訂、英語版)。周期の長さは、ある周期の生理の初日から、次の周期の初日までの日数として数えるとしています。卵巣の周期を卵胞期・排卵期・黄体期の3つに、子宮内膜の周期を月経期・増殖期・分泌期に分けて説明しています。子宮内膜が最も厚くなるのは卵胞期の終わりごろ、LHは脳の下垂体(前葉)の細胞から出る(「from specialized cells (gonadotropes) in the anterior pituitary gland」)、LHの急な増加が卵胞の壁をくずす酵素をはたらかせて卵子が出る、LHの急な増加のあいだにエストラジオール(エストロゲンの一種)は下がりプロゲステロンは増え続ける(「During the LH surge, estradiol levels decrease, but progesterone levels continue to increase.」)、黄体はおもにプロゲステロンを出し、排卵の6〜8日後ごろに最も多くなる、としています。卵胞期については「This phase varies in length more than other phases」、黄体期については「The length of this phase is the most constant, averaging 14 days」、基礎体温については、プロゲステロンの作用で黄体期のあいだ約0.5℃上がると説明しています。「排卵は次の生理のおよそ2週間前」は、この平均14日から計算したもので、黄体期の長さにも人や周期による幅があります(注釈5)。 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7
厚生労働省「働く女性の心とからだの応援サイト」「女性ホルモンとライフステージ」。「女性ホルモンとは、おもに卵巣から分泌される『エストロゲン』と『プロゲステロン』のことを指します」。和名の卵胞ホルモン・黄体ホルモンは、コトバンク「女性ホルモン」の改訂新版 世界大百科事典の項(「エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2種類がある」)で確認しました。 ↩
Cleveland Clinic「Menstrual Cycle」(2022年12月9日更新)。アメリカの医療機関による一般向けの解説で、周期を menses(月経期)・follicular(卵胞期)・ovulation(排卵期)・luteal(黄体期)の4つに分けています。卵胞期は生理が始まった日に始まって排卵で終わる、エストロゲンが子宮内膜を育てて厚くする、プロゲステロンが子宮内膜を妊娠に備えさせる、としています。時期の日数は28日の周期を例にしたものです。資料によって時期の分け方は異なります。MSDマニュアル家庭版は卵胞期・排卵期・黄体期の3つ(注釈4)、研究者向けの総説は排卵を境に卵胞期・黄体期の2つ(注釈5)で説明しています。排卵のころや生理の日を別の時期として数えるかどうかによる違いです。 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
MSDマニュアル家庭版「月経周期」(Jessica E. McLaughlin 著、2025年7月改訂)。月経周期を「卵胞期」「排卵期」「黄体期」の3つに分けています。「排卵期は通常16~32時間続き」、黄体期は「受精が起こらなければ、14日間ほど続いてから、月経の直前で終わります」。「受精が起こらなかった場合や、受精卵が着床しなかった場合には、黄体は14日後には退化し、エストロゲンとプロゲステロンの血中濃度が低下し、新たな月経周期が始まります」。黄体期に「基礎体温を少しだけ上昇させ、月経が始まるまで維持する」ともしています。MSDマニュアルは製薬会社のMerck & Co.が発行する医学事典で、この項目は医師が執筆しています。 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
Schmalenberger KM ほか. How to study the menstrual cycle: Practical tools and recommendations. Psychoneuroendocrinology. 2021;123:104895(全文で確認)。周期を研究するための方法をまとめた総説です。卵胞期は卵胞が育つことから名付けられ、生理の始まりから排卵の日まで。黄体期は排卵の翌日から次の生理の前日までで、残った卵胞が黄体に変わるとしています。卵胞期のあいだプロゲステロンは低く、エストロゲン(エストラジオール)は卵胞期の半ばまで少しずつ増え、排卵の直前に大きく高まる。黄体期の半ばにプロゲステロンが最も多くなり、エストロゲンは2度目の山をつくる。妊娠しなければ黄体が退縮し、2つのホルモンが急に下がって生理が起きる、と説明しています。図1は、28日の周期を理想化した形でホルモンの増減を示しています。黄体期の長さについては「The average length of the luteal phase is 13.3 days (SD = 2.1; 95% CI: 9–18 days)」とし、黄体期にも幅があることを、注釈8のFehringらの研究の値として紹介しています(この値は注釈8の要旨には載っておらず、元の研究では確認できていません)。感じやすさについては「naturally-cycling females differ greatly in their sensitivity to the cycle」とし、一部の人がふつうのホルモンの変化に対して異常な感じやすさをもつことが、長期の追跡研究や実験研究で示されているとしています。なお、この総説は、研究で時期を決める方法が研究ごとに大きく違うことも指摘していますが、これは研究での日付の区切り方の話で、注釈3の「2つから4つ」の分け方の違いとは別のことです。 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8
Critchley HOD ほか. Menstruation: science and society. American Journal of Obstetrics and Gynecology. 2020;223(5):624–664(全文で確認)。「Progesterone withdrawal is the trigger for menstruation」とし、黄体が退化したあとのエストロゲンとプロゲステロンの低下に続いて生理が起きると説明しています。 ↩
厚生労働省研究班監修「女性の健康推進室 ヘルスケアラボ」「月経不順・無月経」(2025年10月17日更新)。「月経には個人差がありますが、周期は25日~38日であれば正常です」。正常とする周期の範囲は資料によって少しずつ異なり、注釈4・1のMSDマニュアルは24〜38日、注釈3のクリーブランド・クリニックは21日〜約35日、注釈5の総説は21〜37日としています。 ↩
Fehring RJ, Schneider M, Raviele K. Variability in the phases of the menstrual cycle. Journal of Obstetric, Gynecologic, and Neonatal Nursing. 2006;35(3):376–384. 健康で周期が規則的な女性141人(平均29歳)が、家庭用の機器で尿中のLHなどを調べ、1,060周期のデータを得た研究です。周期の長さは平均28.9日で、95%の周期が22〜36日。42.5%の人に、7日を超える周期の長さの変動(要旨の表現では intracycle variability)が見られたとしています。「The follicular phase contributes most to this variability」と結論しています。確認できたのは要旨のみです。 ↩1 ↩2