生理前の眠気は、どう説明されている?
生理(月経)が近づくと、昼間にぼんやりしたり、眠気を感じたりすることはありませんか。
排卵のあと、次の生理までの時期には、プロゲステロンというホルモンが多く出て、体温が高めになります。さらに、夜の体温の下がり方も小さくなることが報告されています。生理前の眠気には、こうしたホルモンと体温の変化が関わると考えられています。12
では、ホルモンや体温の変化は、眠気とどのようにつながっているのでしょう。まず、排卵のあとに起こる変化から見ていきます。
排卵のあとは、プロゲステロンが増える
排卵のあとから次の生理までの時期は、「黄体期」と呼ばれます。生理前は、この黄体期の後半にあたります。13
この時期に多く出るプロゲステロンは、卵巣にできる「黄体」から分泌される女性ホルモンです。そのはたらきの一つに、体温を上げる作用があると考えられています。32
基礎体温(安静にしているときの体温)を記録すると、排卵のあとには0.3〜0.5℃ほど高くなる変化が見られます。これは、プロゲステロンの分泌に合わせて起こる変化です。体温の高い「高温期」は、12〜14日ほど続くとされています。4
生理前は、夜でも体温が下がりづらくなる
体温と眠りの関係を考えるとき、もう一つ注目したいのが、脳や臓器の温度である「深部体温」です。基礎体温が安静時の体温を指すのに対し、深部体温は体の内部の温度を指します。142
深部体温には1日のリズムがあり、ふつうは夜になると下がっていきます。手足などの皮膚の血流が増え、体の熱が外へ逃げることで深部体温が下がり、寝つきを助けるとされています。2
ところが黄体期には、深部体温が全体に高めになり、夜の下がり方も小さくなります。そのため、1日の体温の上がり下がりの幅が小さくなります。2
模式図です。測定データの波形ではなく、線の高さの差や時刻は簡略化しています。黄体期は深部体温が全体に高めで、1日の上がり下がりの幅が小さく、おもに夜の下がり方が鈍くなる、という説明を線の形で表しました(注釈2)。
こうした体温のリズムや女性ホルモンの変化によって、生理前には眠りが浅くなったり、日中の眠気が強くなったりすると考えられています。1
眠気や眠りの変化には、個人差がある
ただ、生理前の眠気や眠りの変化は、誰にでも同じように現れるわけではありません。生理前の不調が出る時期に、眠りの質が悪くなったと感じる人もいれば、そうでない人もいます。5
日中の眠気については、排卵前よりも黄体期に強くなったという小規模な研究があります。6また、睡眠の日誌をつけてもらった研究では、ほかの生理前の不調が強い人ほど、黄体期の日中の眠気の増え方が大きいという結果でした。7
夜の眠りについても、生理前の不調のない女性では、睡眠時間や寝つきに周期を通じたはっきりした変化が見られなかった研究があります。8眠気が強くなることと、夜の眠りが変わることは、分けて見ていく必要があります。
日本産科婦人科学会も、月経前症候群(PMS)の症状の一つに「不眠・眠気」を挙げています。眠気も、生理前の不調の一つとして知られています。9
ホルモンの脳への作用も、眠気に関わると考えられている
生理前の眠気には、体温の変化に加えて、プロゲステロンに関連する脳への作用も関わると考えられています。12
プロゲステロンは、体の中で「アロプレグナノロン」という物質に変わります。この物質は、脳の興奮をしずめる仕組みにはたらき、気持ちを落ち着かせたり、眠りを促したりするとされています。2
体温のリズムの変化
- 黄体期は深部体温が高めになる
- 夜の体温の下がり方も小さくなる
- 眠りの浅さや日中の眠気に関わると考えられている
ホルモンに関連する脳への作用
- プロゲステロンからアロプレグナノロンができる
- 脳の興奮をしずめる仕組みにはたらく
- 眠りを促す作用があるとされている
眠気の背景として考えられている仕組みを整理した図です。それぞれが生理前の眠気にどのくらい関わっているかを示すものではありません(注釈1・2)。
つまり、生理前の眠気を考えるうえでは、夜の体温の下がり方の変化と、ホルモンに関連する脳への作用の両方が手がかりになります。12ただし、それぞれが生理前の眠気にどのくらい関わっているのかは、まだはっきりしていません。
生理前の眠気の背景には、ホルモンと体温の変化があると考えられています。
注釈・出典
厚生労働省 e-ヘルスネット「女性の睡眠障害」(三島和夫、2025年6月16日更新)。冒頭で、女性ホルモンが大きく変動するライフイベントで生じることがある睡眠問題の例に、「生理前の強い眠気」を挙げています。見出し「生理前は、やたらとねむい」の項で、「黄体期にはプロゲステロンが増加します。プロゲステロンの影響で眠気が強くなります」「また黄体期には基礎体温が高くなり、深部体温(脳や臓器の温度)の一日のリズムのメリハリがなくなります」「このような女性ホルモンや深部体温の変化により、月経前(黄体期の後半)に、睡眠が浅くなったり日中の眠気が強くなると考えられています」としています。 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
注釈3と同じ総説(全文で確認)。黄体期には、卵胞期(生理から排卵までの時期)と比べて深部体温が約0.3〜0.4℃高くなり、1日のリズムの振幅が小さくなること、そのおもな理由が夜の深部体温の低下が鈍ることだとしています(「owing mainly to a blunted nocturnal decline of CBT」)。この値は、総説が先行研究(Cagnacci ほか)から紹介しているもので、元の研究では確認できていません。この体温の上昇は、体温を上げる性質をもつプロゲステロンによる可能性が高いとしています(「most likely due to progesterone」)。夜、メラトニンが増えると、手足などの皮膚の血流が増え、深部体温が下がり、それが寝つきを助けるとしています(「favors sleep initiation」)。同論文の図3の説明では、手足からの放熱が増え、深部体温が下がったあとに眠気が増すという関係を示しています。プロゲステロンの、不安をしずめ眠りを促す作用は、代謝物のアロプレグナノロンがGABA-A受容体に結合することによるとしています(「Progesterone produces its anxiolytic/hypnotic effects via allopregnanolone's binding to GABAA-receptors」)。基礎体温(注釈4)と深部体温は測り方が異なる値です。 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8
Shechter A, Boivin DB. Sleep, Hormones, and Circadian Rhythms throughout the Menstrual Cycle in Healthy Women and Women with Premenstrual Dysphoric Disorder. International Journal of Endocrinology. 2010;2010:259345(全文で確認)。排卵のあとの黄体期は、新しくできた黄体が性ホルモンを出す時期で、プロゲステロンが中心になるホルモンだとしています(「progesterone is the dominant hormone」)。受精しなければ、黄体期の終わりに性ホルモンの量が下がり、生理が起こるとしています(「sex hormone levels drop at the end of the LP」)。 ↩1 ↩2
女性の健康推進室 ヘルスケアラボ「基礎体温」(厚生労働省研究班監修、2026年4月15日更新)。基礎体温を「生命を維持するのに必要最小限のエネルギーしか消費していない安静時の体温」とし、「排卵したあとに、プロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌に合わせて、わずかに(0.3~0.5℃)体温が上がります」「高温期は12~14日続きます」としています。 ↩1 ↩2
Baker FC, Lee KA. Menstrual Cycle Effects on Sleep. Sleep Medicine Clinics. 2022;17(2):283–294. 要旨で、影響の大きさはさまざまで、とくに本人が評価する眠りの質は、月経前の症状が現れるときに、一部の女性で悪化するが、すべての女性ではない(「worsens in some, but not all, women」)としています。確認できたのは要旨のみです。 ↩1
Shibui K, Uchiyama M, Okawa M ほか. Diurnal fluctuation of sleep propensity and hormonal secretion across the menstrual cycle. Biological Psychiatry. 2000;48(11):1062–1068. 健康な女性8人に、短い睡眠と覚醒を1日じゅうくり返す日程(ultrashort sleep-wake schedule)で過ごしてもらい、卵胞期と黄体期を比べた研究。黄体期には、深部体温のリズムの振幅が小さくなり、日中の眠気と日中の徐波睡眠(深い眠り)が増えたとしています。日中の徐波睡眠の差は、1日の平均の直腸温の差と正の相関があったとし、著者らは、黄体期の日中の眠気の増加は日中の徐波睡眠の増加と関連し、黄体期の体温調節の変化による可能性がある(「due possibly to」)と結論しています。確認できたのは要旨のみです。 ↩1
Manber R, Bootzin RR. Sleep and the menstrual cycle. Health Psychology. 1997;16(3):209–214. 健康な女性32人が、2周期にわたって1日2回、睡眠と覚醒の日誌をつけた研究。黄体期に、寝つくまでの時間が有意に延び、睡眠効率と眠りの質が有意に下がり、これは対象者全体で見られ、ほかの月経前の症状の強さとは関係しなかったとしています。一方、ほかの月経前の症状が強い人ほど、黄体期の日中の眠気の増加が大きかったとしています。本人の記録による結果です。確認できたのは要旨のみです。 ↩1
Driver HS, Dijk DJ, Werth E, Biedermann K, Borbély AA. Sleep and the sleep electroencephalogram across the menstrual cycle in young healthy women. Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism. 1996;81(2):728–735. 月経前症候群の症状のない女性9人の、1周期の138夜を記録した研究。本人が評価した眠りの質と気分、機器で測った睡眠時間・睡眠効率・寝つくまでの時間などに、周期を通じた有意な変化はなかったとしています。睡眠紡錘波(眠りの脳波の一つ)の活動は黄体期に最も大きくなり、深部体温と並行して変化したとしています。確認できたのは要旨のみです。Baker FC, Driver HS. Circadian rhythms, sleep, and the menstrual cycle. Sleep Medicine. 2007;8(6):613–622 の要旨も、健康な女性では、睡眠のタイミングと構成は周期を通じて比較的安定しており、黄体期の変化は睡眠紡錘波の活動の増加とレム睡眠のわずかな減少だとしています。同じ要旨は、本人が感じる眠りの質が最も低いのは生理の前後(「around menses」)だとしています。 ↩1
日本産科婦人科学会「月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)」(2025年1月30日更新)。こころの症状として「情緒が不安定、イライラする、気分が落ち込む(抑うつ)、不安、不眠・眠気(睡眠障害)、集中力が低下する」を挙げています。 ↩1