同じ一杯なのに、どうして違う?
コーヒーを飲んでも、いつもどおりに過ごせる人もいれば、一杯で目がさえたり、ソワソワしたりする人もいます。同じように飲んでいるのに、ずいぶん違うものですよね。
「私はカフェインに弱いから」「あの人は強いから」。そんな言葉で表される違いですが、体の中では何が違うのでしょう。
その手がかりになるのは、カフェインを体から減らす速さと、カフェインへの反応のしやすさです。生まれ持った遺伝子も、この二つに関わっています。まずは、それぞれの違いから見てみましょう。
「減らす速さ」と「反応しやすさ」
まず一つは、カフェインが体から減っていく速さです。同じ量を飲んでも、早く減っていく人と、長く残りやすい人がいます。1
もう一つは、カフェインへの反応のしやすさです。同じ量でも、目がさえる感じやソワソワする感じがどれくらい現れるかは、人によって違います。1
二つは別の要素。図は考え方を整理したもので、反応の測定結果ではありません。
長く残ることと、敏感に反応することには、それぞれ違う仕組みが関わります。まずは、体から減っていく速さのほうを見てみましょう。
肝臓で減らす速さに、遺伝が関わる
体に入ったカフェインは、主に肝臓ではたらく酵素によって、別の物質へ変えられていきます。こうした体内での変化を「代謝」と呼びます。2
酵素は、体の中の化学反応を進める役目を持っています。カフェインが次々と別の物質に変わるにつれて、体内に残っているカフェインも減っていきます。
こうした酵素は、遺伝子に記された情報をもとに作られます。カフェインの代謝を担う酵素に関わる遺伝子には、人によって小さな違いがあり、酵素のはたらきの差との関連が報告されています。3
ほかの条件が同じなら、代謝がゆっくりなほどカフェインは長く残りやすくなります。同じ時刻に同じ量を飲んでも、数時間後の残り方に違いが出るのは、このためです。
ただ、遺伝子の型を調べれば、誰でも同じように「速い人・遅い人」と分けられるわけではありません。研究でも、喫煙する人としない人では、遺伝子の違いと代謝の速さとの関係が異なっていました。3
遺伝は、こうした減らす速さを左右する要素の一つです。では、カフェインの効き方は、体に残る量だけで決まるのでしょうか。
脳の反応しやすさにも、違いがある
その答えを考えるために、次はカフェインがはたらく脳のほうを見てみましょう。ここで関わるのが、もう一つの「反応しやすさ」です。
脳には、起きている間に増えていく、眠気を知らせる物質があります。この物質が細胞にある「受け取り口」に結びつくと、眠りへ向かうはたらきに関わります。4
カフェインも、この受け取り口に結びつくことができます。ただし、もとの物質と同じ眠気の合図を伝えるのではなく、その物質が結びつくのを妨げます。その結果、眠気が和らぎ、目がさえるのです。4
もともとのはたらき
眠気に関わる物質
受け取り口に結びつく
眠気に関わるはたらき
カフェインがあると
カフェイン
もとの物質のはたらきを妨げる
眠気が和らぐ方向に
仕組みの一部を簡略化した模式図。丸と四角は物質を区別する記号です。反応のしやすさには個人差があります。
この「受け取る側」にも、人による違いがあります。受け取り口に関わる遺伝子の違いと、カフェインをとったあとの睡眠や不安の感じ方との関連が報告されています。5
つまり、体の中のカフェインを減らす速さに加えて、脳がどれくらい反応しやすいかにも違いがあるわけです。この二つが重なることで、同じ一杯でも、目のさえ方や落ち着かなさの感じ方が変わってきます。
ただ、こうした研究でわかるのは、集団としての傾向です。特定の遺伝子の型を持っていれば、誰でも必ず眠れなくなる、という意味ではありません。
飲み慣れや、体の状態も重なる
生まれ持った違いがある一方で、ふだんの飲み方によって変わってくる部分もあります。その一つが、カフェインへの「慣れ」です。
繰り返しカフェインをとっていると、一部の作用を感じにくくなることがあります。これを「耐性」と呼びます。日常的によくとる人は、あまりとらない人に比べて、カフェインによる不安の反応が小さい傾向も報告されています。6
そのため、「前ほどソワソワしなくなった」という変化には、慣れが関わっていることも考えられます。ただ、慣れが出るのは一部の作用です。その感覚だけで、体に残る量や睡眠への影響までわかるわけではありません。
一方、体から減らす速さも、生まれ持った違いだけで決まるものではありません。服用している薬や妊娠の有無、肝臓の状態などによって、カフェインが減るまでの時間は変わります。7
カフェインへの反応には、遺伝に加えて、飲み慣れや今の体の状態も関わっています。そのため、同じ人でも、以前と今とで感じ方が変わることがあるのです。
一杯への反応に関わる
影響の大きさや割合を表した図ではありません。飲んだカフェインの量も関わります。
「平気」のひと言では、測れない
こうして見ると、「カフェインに強い」という言葉には、いくつかの違いが重なっていることがわかります。飲んでも眠れることと、ソワソワしないことでは、見ている反応も違いますよね。
また、人と比べるときには、「一杯」に含まれる量の違いもあります。カップの大きさや製品によって、カフェインの量は変わります。同じ「コーヒーを一杯飲んだ」でも、体に入った量まで同じとは限らないのです。1
同じ「一杯」でも、含まれる量と、受け取る体の両方に違いがあります。その違いが重なって、私たちが「強い・弱い」と感じる差につながっているのです。
同じ一杯でも感じ方が違うのは、カフェインを減らす速さと、反応のしやすさに違いがあるからです。
注釈・出典
FDA「Spilling the Beans: How Much Caffeine is Too Much?」 は、作用への敏感さと体から排出する速さの両方に大きな個人差があると説明しています。製品や容器の大きさで含有量も変わります。 ↩1 ↩2 ↩3
肝臓での代謝とその後の排出は、BfR(ドイツ連邦リスク評価研究所)のカフェインQ&A の吸収・排出の項目を参照。酵素は化学反応を促すたんぱく質で、カフェインの代謝ではCYP1A2が主要な役割を担います。酵素と遺伝子の関係は、次の研究も参照しています。 ↩
Sachseら(1999):CYP1A2の遺伝的な違いとカフェイン代謝を調べた研究(Br J Clin Pharmacol、doi: 10.1046/j.1365-2125.1999.00898.x)。非喫煙者185人の尿中代謝比では遺伝型による有意差がなく、喫煙者51人の血中代謝比では差が認められました。測定試料も異なるため、本文では遺伝型だけで全員の代謝速度を決められない例として扱っています。この結果を、日本人全体の遺伝型の割合や、個人の安全な摂取量へ置き換えていません。 ↩1 ↩2
眠気に関わる物質はアデノシン、受け取り口はアデノシン受容体です。アデノシンと睡眠への欲求の関係は NIH/NHLBI「What Makes You Sleep?」、カフェインが受容体でそのはたらきを妨げる点はRogersらの研究(注釈5・6)を参照。睡眠には体内時計なども関わるため、本文は仕組みの一部を簡略化しています。 ↩1 ↩2
アデノシンA2A受容体の遺伝子ADORA2Aと睡眠への反応は Réteyら(2007)のヒト研究(Clin Pharmacol Ther、doi: 10.1038/sj.clpt.6100102)、不安への反応は Rogersら(2010)のヒト研究(Neuropsychopharmacology、doi: 10.1038/npp.2010.71)を参照。睡眠と不安は別の評価項目です。一つの型を一律に「弱い型」と分類せず、個人の体質診断には使っていません。 ↩
Rogersら(2010、注釈5)は、カフェインをほとんど・少ししかとらない162人と、中程度・多くとる217人を対象に、カフェインまたはプラセボを投与し、不安などの反応を比較しました。日常の摂取量自体を無作為に割り付けた研究ではありません。慣れが少なくとも一部の作用に生じることはBfRのQ&A(注釈2)も参照。すべての作用への完全な耐性や、飲み続けることの安全性を示す結果としては扱っていません。 ↩
EFSA「EFSA explains risk assessment: Caffeine」(2015年、1ページ) は、カフェインが半分に減る時間に、妊娠の有無、服薬、肝臓の状態などが関わると説明しています。本文は個人差の仕組みを説明するもので、症状の原因や薬との相互作用を個別に判断するものではありません。 ↩