生理の痛みは、どこからくる?
生理(月経)の前や生理中に、下腹部や腰のあたりが痛む。この痛みが、生理痛(月経痛)です。毎月起こる生理の中で、体のどんなはたらきが痛みにつながっているのでしょう。1
その仕組みに関わるのが、プロスタグランジンというホルモンに似た物質です。子宮を縮めるはたらきがあり、痛みを感じやすくする作用も持っています。1
なぜ生理のころにこの物質が作られ、痛みが起きるのか。生理が始まるときの変化から、痛みの強さとの関係、痛み止めがはたらく仕組みまで、順に見ていきます。
病気が原因の痛みと、生理の仕組みに伴う痛み
生理に伴う痛みなどが、日常生活に支障をきたすほど強い場合、月経困難症と呼ばれます。下腹部や腰の痛みのほかに、吐き気や頭痛などが現れることもあり、原因によって2つのタイプに分けられます。2
1つは、子宮筋腫や子宮腺筋症、子宮内膜症などの病気が原因になる「器質性月経困難症」です。生理痛は、こうした病気の症状として現れることもあります。23
もう1つは、原因となる病気がはっきりしない「機能性月経困難症」です。こちらは、生理のときに作られるプロスタグランジンのはたらきによって、痛みなどの症状が起こると考えられています。24
同じ生理痛でも、背景にある仕組みは一つではありません。ここでは、機能性月経困難症で痛みが起きる仕組みを見ていきます。
- 原因となる病気
- はっきりしない(注釈4)
- 痛みの仕組み
- 生理の流れの中で、プロスタグランジンが作られ、痛みなどの症状が現れる(注釈2)
- 原因となる病気
- 子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜症など(注釈2)
原因となる病気の有無による分類です。この記事では、機能性月経困難症の仕組みを説明します(注釈2・4)。
生理が始まる変化の中で、痛みに関わる物質が作られる
子宮の内側をおおう子宮内膜は、妊娠に備えて変化する組織です。妊娠しなかった周期では、この内膜がはがれ、血液と一緒に体の外へ出ていきます。これが生理です。6
内膜を維持するはたらきを持つのが、プロゲステロンというホルモンです。妊娠しなかった周期では、血液中のプロゲステロンが減ります。その低下が合図になり、内膜がはがれ始めます。6
このとき、内膜がはがれるのに伴って酵素が放出されます。酵素は、体の中で物質を作ったり分解したりする反応を助けるものです。まず、そのはたらきでプロスタグランジンの材料ができます。さらに別の酵素、シクロオキシゲナーゼがはたらくことで、プロスタグランジンが作られます。7
プロスタグランジンは、生理が始まってからだけ作られるわけではありません。周期が規則的な人では、排卵から次の生理までの「黄体期」の後半に、子宮内膜での量が高くなっています。ホルモンの変化、内膜がはがれること、プロスタグランジンが作られることは、生理に向かう一連の変化としてつながっています。7
子宮が縮むことに、血流と神経の変化も重なる
子宮には筋肉があり、プロスタグランジンはその筋肉を収縮させます。生理のときに子宮が縮むことは、内膜や血液が体の外へ出ていく流れの一部です。25
痛みには、収縮の起こり方も関わると考えられています。機能性月経困難症では、子宮の収縮が頻繁に、不規則に起こることや、収縮が長く続くことが説明されています。単に子宮が動くというだけでなく、その動き方も痛みにつながる要素です。89
また、プロスタグランジンは子宮への血流を減らし、子宮内の神経を痛みに敏感にする作用も持っています。筋肉に届く血液が減ることと、痛みを感じやすくなることが、子宮の収縮に重なります。こうした変化が、生理痛につながると考えられています。578
- 1血液中のプロゲステロンが減る(注釈6)
- 2子宮内膜がはがれ始め、酵素が放出される(注釈7)
- 3シクロオキシゲナーゼのはたらきで、プロスタグランジンが作られる(注釈7)
プロスタグランジンのはたらき(3つは順番ではなく、並べたもの)
- 子宮を縮める(注釈1・5)
- 子宮の筋肉への血流を減らす(注釈5・8)
- 痛みを伝える神経を敏感にする(注釈5・9)
痛みにつながると考えられている生理痛(注釈7・8・9)
本文の説明を流れにまとめた模式図です。時間の長さや物質の量は表していません。生理痛の仕組みは、まだすべては解き明かされていないとされています(注釈7)。
痛みの強さは、作られる量とも関係する
生理痛には、軽い痛みから、横になっていないと耐えられないほどの痛みまで幅があります。その強さに関わる要因の一つが、プロスタグランジンの量です。2
作られる量が多いほど、生理痛が強い傾向があります。研究をまとめたコクラン・レビューでも、月経困難症の人の多くは、そうでない人よりプロスタグランジンが多いと紹介されています。ここで示されているのは、痛みのある人とない人を比べたときの傾向です。19
ただし、量だけですべての痛みを説明できるわけではありません。同じ報告には、おなかの中を見る検査(腹腔鏡)で異常が見つからず、強い痛みがある人でも、経血のプロスタグランジンが多くない場合が示されています。この物質の関与はわかっていても、生理痛の仕組みには、まだ解き明かされていない部分があります。79
痛み止めは、この仕組みのどこにはたらく?
ここまで見てきた、プロスタグランジンが作られる過程にはたらく痛み止めもあります。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と呼ばれる薬です。9
NSAIDsが抑えるのは、先ほど出てきた酵素、シクロオキシゲナーゼのはたらきです。材料からプロスタグランジンが作られる段階を抑えることで、作られる量を減らします。79
NSAIDsは、子宮内膜で作られるプロスタグランジンを減らし、子宮の過度な収縮をやわらげることで、機能性の生理痛を軽くすると考えられています。前の節で見た「物質が作られる→子宮にはたらく→痛みにつながる」という流れの、物質が作られる段階にはたらく薬なのです。9
生理のころの下腹部の痛み。その背景には、子宮の動きと、そこで作られる物質のはたらきがあります。
注釈・出典
厚生労働省研究班監修 ヘルスケアラボ「生理痛(月経痛)」(2024年5月8日更新、国立成育医療研究センター監修)。「生理痛(月経痛)は、生理の前や生理中に、下腹部や腰のあたりに感じる痛みのことです」「原因は、痛みや発熱などに関わる『プロスタグランジン』というホルモンに似た物質が作られることにあります」「その時に作られる『プロスタグランジン』というホルモンに似た物質に、痛みを感じやすくする作用があります」「子宮が収縮するときに痛みを感じますが、プロスタグランジンは子宮を収縮させる働きにも関係してるため、生理の時には痛みを感じます」「作られる『プロスタグランジン』の量が多いほど、生理痛が強くなることも知られています」。同サイトの記事一覧のページは、この記事を「月経痛(生理痛)は、子宮内で月経血を押し出そうとするホルモン(プロスタグランジン)の働きによるものです」と紹介しています(一覧のページには更新日の記載がありません)。 ↩1 ↩2 ↩3
厚生労働省研究班監修 ヘルスケアラボ「月経困難症」(2024年5月8日更新、国立成育医療研究センター監修)。日常生活に支障をきたすほど強い症状を月経困難症と説明しています。「月経困難症は、生理の直前あるいは開始とともに、腹部や腰部の強い痛み、悪心(気持ちが悪くなること)、嘔吐、下痢、頭痛など、さまざまな症状が現れます」。「月経困難症は2つのタイプがあります」として、機能性月経困難症を「毎月の排卵→妊娠とならない→子宮が収縮し子宮内膜が剥がれ落ちて、血液と一緒に排出される、という生理の流れの中で、痛みや発熱などを引き起こす『プロスタグランジン』というホルモンに似た物質が作られ、腹痛や腰痛、気持ちが悪いといった症状が現れます」と、器質性月経困難症の原因となる病気を「子宮筋腫や子宮腺筋症、子宮内膜症など」と説明しています。「軽度の生理痛は生理のある女性の7割にみられるという報告もあります」「重症例は、横になっていないと耐えられないほどで」。このページは「月経困難症」を2つに分けていて、注釈5のMSDマニュアル家庭版は「月経痛(月経困難症)」の項目で同じ2つの分け方を使っています。 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
日本産科婦人科学会「子宮内膜症」・「子宮筋腫」(いずれも2025年1月30日更新)。「月経痛(月経困難症)は、子宮内膜症の9割の患者さんにみられます」「子宮筋腫の主な症状は、月経の出血量が異常に多い過多月経と、それに伴う鉄欠乏性貧血、月経痛(月経困難症)です」。 ↩
厚生労働省研究班監修 ヘルスケアラボ 相談「生理痛がひどい」への回答(ページに日付・回答者の記載はありません)。「子宮筋腫や子宮内膜症などの病気が原因になっている場合は器質的月経困難症とされ、病気がはっきりしないながらも月経困難症がある場合には機能性月経困難症といわれます」「月経痛は、子宮に作用するホルモン(プロスタグランジン)の働きにより子宮が収縮することで下腹痛や腰痛などが起きることが主な原因で、多少の痛みは生理的な現象です」。 ↩
MSDマニュアル家庭版「月経痛(月経困難症)」(JoAnn V. Pinkerton 著、2025年9月更新)。「機能性月経困難症は、器質性月経困難症よりも多くみられます」「専門家たちは、機能性月経困難症は月経中にプロスタグランジンと呼ばれる物質が血液や組織の中に分泌されることによって起こると考えています」「機能性月経困難症の女性ではプロスタグランジン濃度が高くなっています」「プロスタグランジンは陣痛時のように子宮を収縮させ、子宮への血流を減少させます」「プロスタグランジンはまた、子宮内の神経終末の痛みに対する感受性を増強します」。器質性月経困難症の原因として、子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫などを挙げています。MSDマニュアルは製薬会社のMerck & Co.が発行する医学事典です。 ↩1 ↩2
Critchley HOD ほか. Menstruation: science and society. American Journal of Obstetrics and Gynecology. 2020;223(5):624–664(全文で確認)。子宮内膜は着床の準備をし、妊娠しなければ月経が起こる組織と説明しています。「corpus luteum demise causing a fall in both circulating estrogen and progesterone. Progesterone withdrawal is the trigger for menstruation.」(黄体が退化してエストロゲンとプロゲステロンがともに下がり、プロゲステロンの低下が生理の引き金になる)。プロゲステロンが子宮内膜を維持する役割と、その作用が失われることで月経が起こることは、同論文の「III. An evolutionary argument for the validity of menstruation as a diagnostic tool」でも説明されています(2026年10月5日確認)。 ↩1 ↩2
Itani R, Soubra L, Karout S, Rahme D, Karout L, Khojah HMJ. Primary Dysmenorrhea: Pathophysiology, Diagnosis, and Treatment Updates. Korean Journal of Family Medicine. 2022;43(2):101–108(全文で確認)。原発性月経困難症(primary dysmenorrhea)を、骨盤の中に病気がない状態で生理の始まる少し前か始まりとともに起きる、下腹部のけいれんするような痛みとしています(本文で機能性月経困難症として説明している痛みにあたります)。プロゲステロンの急な低下は「endometrial sloughing, menstrual bleeding, and the release of lysosomal enzymes」(子宮内膜がはがれること、生理の出血、リソソームの酵素の放出)を伴い、そこからアラキドン酸(プロスタグランジンの材料)ができてプロスタグランジンが作られるとし、「Prostaglandins are synthesized through the arachidonic acid cascade, mediated by the cyclooxygenase (COX) pathway.」としています。「Females with regular menstrual cycles have elevated endometrial prostaglandin levels during the late luteal phase.」。仕組みについては「Although the pathophysiology of dysmenorrhea has not been fully elucidated, current evidence suggests that the pathogenesis of dysmenorrhea is due to the increased secretion of prostaglandin F2α (PGF2α) and prostaglandin E2 (PGE2) in the uterus during endometrial sloughing.」とし、これらが子宮の筋肉の収縮と血管の収縮を強め、子宮の血流不足を経て、痛みを伝える神経を過敏にすると説明しています。痛みの強さなどは子宮内膜の PGF2α・PGE2 の濃度と相関するともしています。NSAIDs は「inhibit the action of cyclooxygenase, which in turn, inhibits the production of prostaglandins」。酵素の役割は米国国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)「Enzyme」の、細胞内の特定の化学反応を速めるという説明も参照しました。黄体期の範囲はCleveland Clinic「Menstrual Cycle」の、排卵後から次の生理までという説明に対応します(補足2資料は2026年10月5日確認)。 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
MSDマニュアル プロフェッショナル版「月経困難症」(JoAnn V. Pinkerton 著、2024年3月更新)。機能性月経困難症について「痛みは子宮収縮と虚血から生じると考えられており、分泌期の子宮内膜で産生されるプロスタグランジン(例、プロスタグランジンF2α、強力な筋層刺激物質であり血管収縮物質)および他の炎症メディエーターにおそらく仲介され、また、子宮収縮の延長と筋層への血流の減少とも関連していると考えられる」。 ↩1 ↩2
Marjoribanks J, Ayeleke RO, Farquhar C, Proctor M. Nonsteroidal anti-inflammatory drugs for dysmenorrhoea. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2015;(7):CD001751(背景の節を全文で確認)。primary dysmenorrhoea(原発性月経困難症)を、器質的な病気のない生理の痛みとしています(本文の機能性月経困難症にあたります)。「Current understanding is that it is caused by an excessive or imbalanced amount of prostanoids (hormone‐like substances including prostaglandin) released from the endometrium during menstruation. These cause the uterus to contract frequently and dysrhythmically, with reduced local blood flow and hyper sensitisation of the peripheral nerves.」「Although most women with dysmenorrhoea have higher levels of prostaglandins F2 alpha and E2 than non‐dysmenorrhoeic women, some women with severe dysmenorrhoea and normal laparoscopic findings do not have elevated menstrual prostaglandin to account for the symptoms.」(多いという比較は Pickles 1979、強い痛みがあっても多くない例は Chan 1978 を引いたものです。元の研究は確認できていません。2026年10月5日に背景の節の引用先を再確認)。NSAIDs については「NSAIDs inhibit the action of cyclooxygenase (COX), an enzyme responsible for the formation of prostaglandin (and other prostanoids).」「It is thought that NSAIDs relieve primary dysmenorrhoea mainly by suppressing the production of endometrial prostaglandins, thus alleviating cramps and restoring normal uterine activity. In addition there may be direct analgesic action on the central nervous system.」。 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6