避妊にも、生理痛の治療にも使われるのはなぜ?
「ピル」と聞くと、避妊のための薬を思い浮かべる人もいるかもしれません。一方で、生理(月経)の痛みを軽くする治療にも、低用量ピルは使われています。5
妊娠を防ぐことと、生理の痛みを和らげること。一見別々に見える二つの目的は、排卵や生理に関わるホルモンの働きでつながっています。低用量ピルは、その仕組みに働きかける薬です。15
何が入っていて、体の中でどう働くのか。そこからたどると、使われる目的の違いも見えてきます。効果だけでなく、副作用や使えない場合も含めて、低用量ピルの基本を見ていきます。
この記事は、低用量ピルについての一般的な情報を提供するもので、服用や特定の薬を勧めるものではありません。個別の診断・治療に代わるものではなく、服用が適切かどうかは医師に相談してください。
2種類のホルモンの成分を合わせた薬
排卵や生理には、おもに卵巣から出るエストロゲンとプロゲステロンという女性ホルモンが関わっています。低用量ピルに使われるのは、エストロゲンの成分と、プロゲステロンに似た働きをする合成の成分「プロゲスチン」です。1
この2種類の成分を組み合わせたものが、ここで取り上げる低用量ピルです。ただし、具体的な成分や量は製品によって異なります。たとえばプロゲスチンには、デソゲストレルやドロスピレノンなどがあります。23
日本では、医師の処方箋によって使う薬です。薬の成分、効果、使用上の注意をまとめた添付文書にも、処方箋が必要な薬であることが示されています。23
避妊のためのOC、治療のためのLEP
低用量ピルは、使う目的によってOCとLEPという名前で説明されます。OCは経口避妊薬の略で、避妊を目的とした薬です。LEPは低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤の略で、月経困難症や子宮内膜症の治療に使われます。5
厚生労働省の研究班が監修するヘルスケアラボによると、避妊を目的とするOCは保険の対象外、治療に使うLEPは保険の対象です。似た働きの薬でも、認められている使い道が違います。5
実際に添付文書を比べると、OCの一例では効能は「避妊」、LEPの一例では「月経困難症」です。このLEPには、避妊目的では使用しないことも明記されています。体への働きが似ているからといって、同じ目的で使えるわけではありません。23
避妊
対象外
避妊
エチニルエストラジオール+デソゲストレル
月経困難症や子宮内膜症の治療
対象
月経困難症
「本剤を避妊目的で使用しないこと」
エチニルエストラジオール+ドロスピレノン
目的と保険はヘルスケアラボの説明(注釈5)。効能又は効果と成分は、例として確かめたそれぞれ1つの製品の添付文書によるもので、製品によって異なることがあります(注釈2・3)。
排卵を抑え、子宮内膜にも働きかける
避妊の中心となる働きは、排卵を抑えることです。排卵とは、卵巣から卵子が出ること。低用量ピルはこれを抑えるほか、子宮の入り口にある粘液を変えて精子を通りにくくする働きもあります。12
生理の痛みを軽くする働きには、子宮内膜が関わります。子宮内膜は子宮の内側にある組織で、妊娠しなかった場合にはがれ、血液とともに排出されます。これが生理です。5
LEPは、この内膜が厚くなるのを抑えます。生理のときにはがれる内膜が減ることで、出血の量や痛みを軽くできると、ヘルスケアラボは説明しています。排卵を抑える働きに加えて、子宮内膜への働きが、生理痛の治療につながるのです。5
排卵を抑える
ヘルスケアラボ、MSDマニュアル(注釈1・5)
子宮頸部の粘液を変え、精子を入りにくくする
MSDマニュアル(注釈1)
子宮内膜が厚くなるのを抑えるLEP
ヘルスケアラボ(注釈5)
資料ごとの説明を並べたもので、はたらく順番や、一本の流れを示す図ではありません。3つ目は、ヘルスケアラボがLEPについて述べているはたらきです。
なお、避妊の効果は、飲み忘れなどによっても変わります。資料にある「理想的な使用」は正しく使い続けた場合、「一般的な使用」は飲み忘れも含む場合を指します。後者では妊娠に至る割合が高く、避妊の効果が100%というわけではありません。26
副作用と、見過ごせない血栓症の症状
副作用には、吐き気や頭痛、おなかの張り、乳房の痛みなどがあります。ヘルスケアラボは、吐き気や頭痛などは多くの場合、飲み続けるうちによくなると説明しています。ただし、吐き気や頭痛が、血栓症を疑う症状として現れることもあります。症状の強さだけでは判断できません。124
重い副作用の一つが、血管の中に血の塊ができる血栓症です。低用量ピルの服用で、そのリスクは上がります。ヘルスケアラボは飲み始めてから3か月以内に最も多く、肥満や喫煙でもリスクが高まるとしています。2478
足の急な痛みや腫れ、突然の息切れや胸の痛み、激しい頭痛、手足の力が入らない、急に話しにくい・見えにくいといった症状は、緊急の対応が必要な血栓症の症状として添付文書に挙げられています。3
例として確認したLEPの添付文書は、こうした症状が出た場合、直ちに服用を中止し、救急医療機関を受診するよう伝えています。3
飲むことでわずかに増える
ヘルスケアラボ。日本産科婦人科学会などの文書は「若干上昇」(注釈4・7)
飲み始めてから3か月以内
ヘルスケアラボ(注釈8)
肥満、喫煙
ヘルスケアラボ(注釈8)
足の急な痛み・腫れ、突然の息切れ・胸痛、激しい頭痛、手足の脱力、急な言葉・視力の異常
添付文書は、直ちに服用を中止し、救急医療機関を受診するよう説明している(注釈3)
数値を示した資料もありますが、示し方(何倍か、1万人あたり何人か)や対象の製品・集団が資料によって違うため、図には入れていません(注釈1・8)。
持病や喫煙などで、使えない場合がある
低用量ピルには、使ってはいけない条件もあります。添付文書では「禁忌」と呼ばれ、病気の有無だけでなく、過去にかかった病気や喫煙の状況なども挙げられています。23
たとえば、血栓に関わる病気がある人や、その病歴がある人。35歳以上で1日15本以上たばこを吸う人。前兆を伴う片頭痛のある人。高血圧のある人(軽い場合を除く)。妊娠中・妊娠の可能性がある人や、授乳中の人も含まれます。2
35歳以上で1日15本以上の喫煙が条件に入るのは、心筋梗塞など、心臓や血管の病気が起きやすくなるとの報告があるためです。使えるかどうかには、その人の健康状態や生活習慣が関わります。2
ここに挙げたのは条件の一部で、製品によっても異なります。低用量ピルは、効果だけでなく、使える条件も確かめる必要がある薬です。23
はたらきも、リスクも。
両方を知ることが、低用量ピルの基礎知識。
注釈・出典
MSDマニュアル家庭版「ホルモン剤による避妊法」(2023年8月レビュー、2024年4月更新。アメリカの医師による解説の日本語版)。経口避妊薬には「エストロゲンとプロゲスチンを組み合わせた混合型のもの」とプロゲスチン単独のものがあり、プロゲスチンは「ホルモンのプロゲステロンに似た合成薬」と説明しています。この記事の「低用量ピル」は混合型を指します。混合型の錠剤のエストロゲンは10〜35マイクログラムとしています。はたらきは「卵巣からの卵子の放出(排卵)を停止させるか、あるいは子宮頸部の粘液濃度を高めて精子が子宮に入らないようにすることで、卵子の受精を阻止」。「腹部膨満、乳房の圧痛、吐き気、および頭痛が最も一般的な副作用」としています。静脈の血栓のリスクは、服用する前と比べて2〜4倍になる可能性があるとしています。エストロゲンとプロゲステロンについては、厚生労働省「働く女性の心とからだの応援サイト」が「おもに卵巣から分泌される」2つの女性ホルモンで、「排卵や月経をコントロールする」と説明しています。 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4
マーベロン21/マーベロン28 添付文書(医薬品医療機器総合機構〈PMDA〉の医療用医薬品情報、2025年10月改訂・第4版)。OCの例として確認しました。規制区分は「処方箋医薬品」(「医師の処方箋により使用すること」)、薬効分類名は「経口避妊剤」、効能又は効果は「避妊」。有効成分を含む錠剤1錠中にデソゲストレル0.15mg、エチニルエストラジオール0.03mg。禁忌には「血栓性静脈炎、肺塞栓症、脳血管障害、冠動脈疾患又はその既往歴のある患者」「35歳以上で1日15本以上の喫煙者」(心筋梗塞等の心血管系の障害が発生しやすくなるとの報告がある)、「前兆(閃輝暗点、星型閃光等)を伴う片頭痛の患者」「高血圧のある患者(軽度の高血圧の患者を除く)」、妊婦・授乳婦などが並びます。重大な副作用に「血栓症(四肢、肺、心、脳、網膜等)」。17.3節の避妊法の表では、正しく継続した場合と、飲み忘れを含む場合を区別し、使用開始1年間の妊娠率をそれぞれ0.3%、9%としています。18節では排卵の抑制、子宮内膜や頸管粘液の変化による作用を説明しています。8.2・8.4節では、頭痛や吐き気・嘔吐なども血栓症を疑う症状に挙げ、血栓症が疑われる場合は症状が軽度でも直ちに服用を中止して医師等に相談するよう説明しています。ほかの製品の成分・禁忌は、それぞれの添付文書で異なることがあります。 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11
ヤーズ配合錠 添付文書(PMDA の医療用医薬品情報、2026年8月改訂・第2版)。LEPの例として確認しました。規制区分は「処方箋医薬品」、薬効分類名は「月経困難症治療剤」、効能又は効果は「月経困難症」。有効成分を含む錠剤1錠中にドロスピレノン3mgとエチニルエストラジオール0.020mg。「本剤を避妊目的で使用しないこと。日本人における避妊目的での有効性及び安全性は確認されていない。」。禁忌には、注釈2と同じ趣旨の、血栓・喫煙・片頭痛・高血圧に関わる項目が並びます。警告欄は、足の急な痛み・腫れ、突然の息切れ、胸痛、激しい頭痛、手足の脱力・麻痺、言葉や視力の急な異常などを緊急対応が必要な症状とし、直ちに服用を中止して救急医療機関を受診するよう説明しています。 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7
ヘルスケアラボ「避妊」(厚生労働省研究班監修の「女性の健康推進室 ヘルスケアラボ」、2025年9月9日更新)。低用量ピルを「婦人科で処方できる」と紹介しています。吐き気や頭痛などは「大半の場合、飲み続けていくとよくなるもの」。「低用量ピルの重い副作用のひとつに静脈血栓塞栓症があります。低用量ピル服用により静脈血栓塞栓症の頻度は、わずかに増加するとされています。」。避妊法ごとの失敗率の表は、100人の女性が1年間使用した場合に妊娠する人数で、経口避妊薬(低用量ピル)は理想的な使用で0.3、一般的な使用で9としています(表の出典の記載はありません)。 ↩1 ↩2
ヘルスケアラボ「生理痛(月経痛)」(2024年5月8日更新)。子宮内膜が妊娠に向けて準備され、妊娠しなかった場合には血液とともに排出されることを生理と説明しています。「OCは主に避妊を目的として作られていて保険適応外であるのに対し、LEPは月経困難症治療薬、子宮内膜症治療薬として保険適用されています。」「LEPには子宮内膜の増殖を抑える働きがあり、生理の時に剥がれる子宮内膜を減少させることで出血量や月経痛を軽減することができます。」「低用量ピルを服用している間は排卵がストップする」としています。 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)「Contraception and Birth Control Methods」(2024年8月6日レビュー)。混合型の経口避妊薬は「estrogen and progestin」を含み、一般的な使い方での失敗率(typical use failure rate)を7%としています。注釈4のヘルスケアラボの表(一般的な使用で9)とは値が異なるため、本文では数字を使っていません。 ↩
日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会・日本産婦人科感染症学会「OC・LEPやHRTなどのエストロゲン製剤使用に関する注意」(2020年8月3日)。新型コロナウイルス感染症の流行時に出された注意で、その前提として「OC・LEPやHRTなどのエストロゲン製剤使用により動静脈血栓症のリスクが若干上昇することが知られており」と述べています。 ↩
血栓症が多い時期と、肥満・喫煙という要因は、注釈4のヘルスケアラボ「避妊」によります。同ページは症状が出た場合の処方医への相談を呼びかけていますが、本文の緊急症状と対応は、注釈3の添付文書の警告に沿って記載しています。頻度を数字で示した資料として、欧州医薬品庁(EMA)の評価(2014年)は、1年間に血栓ができる人を、混合型のホルモン避妊薬(飲み薬のほか貼り薬なども含む)を使っていない、妊娠していない女性で1万人あたり約2人とし、飲み薬に使われるプロゲスチンの種類によって、使っている女性で約5〜7人、または約9〜12人としています。注釈1のMSDマニュアルの「2〜4倍」とは示し方が異なり、ヨーロッパの製品と集団についての値のため、本文では数字を使っていません。EMAは、最初の1年に血栓のリスクが高くなるとも述べています。 ↩