食後の眠気を、昼食と時刻に分けてみる
昼ごはんを食べて、午後の仕事や家事に戻ったころ。まぶたが重くなり、「食べたから眠いのかな」と思うことはありませんか。
昼過ぎの眠気には、食事だけでなく、1日の中で変わる眠りやすさも関わっています。研究をまとめた報告では、昼食をとらなくても、昼過ぎに眠りやすくなり、作業の成績が落ちることがあると説明されています。1
ふだんは「昼食を食べたあと」と「昼過ぎという時刻」が重なるため、二つを分けて考える機会はあまりないかもしれません。では、昼食がなくても起こる眠気とはどんなものなのか。そこに食事がどう関わるのか。順に見ていきましょう。
昼食をとらなくても、眠気は起こりうる
昼食との関係を調べるには、まとまった昼食をとらない条件でも、眠りやすい時間帯が現れるかを確かめる方法があります。
アメリカの研究では、年齢の異なる16人が、1時間ごとに少しずつ食事をとって過ごしました。その間、2時間おきに横になり、眠りに入るまでの時間を測っています。眠気の目安にしたのは、実際にどれくらい早く眠れるかということです。2
この条件でも、16〜17歳と62〜74歳のグループでは、時刻によって眠りやすさが変わりました。著者らは、昼ごろの眠気の高まりは食事によるものではないと解釈しています。ただし、10〜12歳のグループでは同じ変化は見られませんでした。2
研究をまとめた報告にも、昼食をとらず、本人が時刻を知らない条件でも、昼過ぎの眠りやすさや作業成績の低下は起こりうるとあります。食後に眠くなったとしても、その眠気のすべてが昼食から生まれたとは限らないのです。1
眠りやすさは、1日の中で変わっている
食事をしていなくても眠気が変わるのは、なぜでしょうか。まず、私たちの眠気をつくる二つのはたらきから考えてみます。
一つは、体が眠りを求める「睡眠欲求」です。起きている時間が長くなるほど強まり、眠ると弱まります。もう一つは、体内時計が体を目覚めさせるはたらき。「覚醒力」と呼ばれ、日中に強くなることで、増えていく睡眠欲求に対抗します。厚生労働省は、この二つのバランスで睡眠のリズムが形づくられると説明しています。3
つまり、眠気は起きてからの時間とともに、ただ増え続けるわけではありません。眠ろうとするはたらきに、体内時計による目覚めを支えるはたらきが重なっています。
昼過ぎの眠気も、こうした体のはたらきから説明しようと研究されています。12人の仮眠の記録をもとに、睡眠欲求と、体内時計に沿って変わる眠りやすさを組み合わせたモデルでは、夜に大きな眠気の山、昼過ぎに小さな山が現れました。朝と夕方には谷があり、眠りやすさに波がある形です。4
Bes ほか(2009)のモデルが示す4つの特徴をもとに描いた模式図です。山の高さや時刻の位置は、実測値やモデルの計算値ではありません(注釈4)。
これは、昼過ぎにも眠りやすくなる時間帯があることを説明する一つのモデルです。誰もが毎日、図のとおりの時刻や強さで眠くなるという意味ではありません。
食事が加わると、眠気が強まることもある
では、昼過ぎに眠くなるリズムがあるなら、昼食は関係ないのでしょうか。食事が眠気をさらに強めるかどうかは、時刻による変化とは分けて確かめる必要があります。
イギリスの16人の研究では、半分の人の食事時刻を2時間ずらし、時刻と食事の影響を分けて調べました。食後1.5時間には食前より眠りに入りやすくなり、著者らは、体のリズムだけでは説明できない、食事による眠気の高まりがあったと考えています。5
一方、15人が食事をとった日ととらなかった日に、同じ時刻に仮眠した研究では、全体としては寝つくまでの時間にはっきりした差がありませんでした。食後に早く眠りに入った人は、そのうち5人でした。6
食事の量を比べた研究もあります。前の晩の睡眠を5時間にした若い男性12人が、軽い昼食と、エネルギーが約3倍の重い昼食のあとに、2時間の単調な模擬運転をしました。重い昼食のあとは、眠気による車線のふらつきと、眠気を示す脳波が増えています。7
食後1.5時間の眠気が、食前より強まった
半分の人の食事を2時間遅らせ、時刻の影響と分けて検討(注釈5)
全体では、差がはっきりしなかった
食後に早く眠りに入ったのは5人(注釈6)
重い昼食のあと、車線のふらつきと眠気を示す脳波が増えた
重い昼食は、軽い昼食のエネルギーの約3倍(注釈7)
人数・食事の条件・眠気の測り方が研究ごとに違うため、数値のグラフにはしていません(注釈5〜7)。
食事によって眠気が強まる場合はあるものの、その現れ方は一様ではありません。これらは十数人ずつの研究で、食事の条件や前の晩の睡眠、眠気の測り方も異なります。昼食の効果を、誰にでも同じ大きさで当てはめることはできません。
「食後だから」に、体のリズムという視点を加える
ここまでの研究から見えてくるのは、昼過ぎの眠気には、昼食なしでも起こる時刻による変化と、食事が加わったときの変化があるということです。
その眠気が、いつも同じように作業へ響くわけでもありません。研究をまとめた報告では、昼過ぎに作業成績が落ちるのは、一部の作業や一部の人だとしています。また、運転の研究の著者らは、前の晩の睡眠が乱れると、昼過ぎの低下が強まると述べています。17
「昼食を食べたから眠い」と思った午後にも、体のリズムが関わっています。そこに、その日の食事や前の晩の睡眠も重なる。そう捉えると、食後の眠気を、食べたものだけの話にせずに見られます。
昼過ぎの眠気には、食事だけでなく、体のリズムも関わっている。
注釈・出典
Monk TH. The post-lunch dip in performance. Clinics in Sports Medicine. 2005;24(2):e15–23(要旨のみ確認)。アメリカのピッツバーグ大学の研究者による報告です。「For some performance variables, and some individuals, there is a dip in performance during the midafternoon hours (referred to as the post-lunch dip) that is linked to an increase in sleep propensity at that time of day」「The post-lunch dip is a real phenomenon that can occur even when the individual has had no lunch and is unaware of the time of day」「may be linked to the size of the 12-hour harmonic in the circadian system」。要旨は、炭水化物の多い昼食で強まること、朝型の傾向が極端に強い人で起こりやすいかもしれないことにも触れています。食事の中身については、注釈5の研究では脂肪の多い食事と炭水化物の多い食事で眠気に差が見られず、資料の間で結果がそろっていません。 ↩1 ↩2 ↩3
Carskadon MA, Dement WC. Multiple sleep latency tests during the constant routine. Sleep. 1992;15(5):396–399(要旨のみ確認)。アメリカのブラウン大学の睡眠研究室の研究です。10〜12歳、16〜17歳、62〜74歳の3つのグループの計16人が、1時間ごとに少量の食事をとる条件(constant routine)で過ごし、2時間おきに眠りに入るまでの時間を測りました(Multiple Sleep Latency Test)。この条件では、16〜17歳と62〜74歳のグループで時刻による違いが統計的に見られ、10〜12歳のグループでは見られませんでした。ふだんの条件で測った日には、時刻による違いは統計的にははっきりしませんでした(62〜74歳のグループでは午後の低下の傾向があったとしています)。「The results indicate a midday increase in sleep tendency that is unrelated to food intake but that may be related to developmental or maturational processes」。冒頭で、「The "post-lunch dip" is a common behavioral phenomenon, though perhaps a misnomer」としています。各グループの人数は要旨に書かれていません。 ↩1 ↩2
厚生労働省 e-ヘルスネット「眠りのメカニズム」(三島和夫、2023年1月23日更新)。「ヒトの睡眠(眠気)は大きくふたつのシステムで形作られています」「睡眠欲求は目覚めている時間が長いほど強くなります」「覚醒力は体内時計から発信されるシグナルの指示で、交感神経の活性化、覚醒作用のあるホルモンの分泌、深部体温(脳温)の上昇などによりもたらされます。覚醒力は日中を通じて増大し、徐々に強まる睡眠欲求に打ち勝ってヒトを目覚めさせます」。睡眠欲求は眠りに入ると減少するとも説明されています。このページには、昼過ぎの眠気についての記述はありません。 ↩
Bes F, Jobert M, Schulz H. Modeling napping, post-lunch dip, and other variations in human sleep propensity. Sleep. 2009;32(3):392–398(全文で確認)。12人が8時から24時まで2時間おきの時刻に1日1回ずつ仮眠した記録をもとにしたモデルです。記録した国は本文から確認できませんでした。体内時計の側の力を、レム睡眠の出やすさから求めた値に置き換えるなど、2過程モデルを変えたモデルです。結果は「(a) a major peak at nighttime, (b) a secondary increase, which peaks post-noon, (c) a first local minimum at sleep offset in the morning, and (d) a second local minimum in the early evening hours」、昼過ぎの山は「the smaller post-noon peak of SP appears when R is still high and S is increasing」と説明されています。考察では「The post-noon secondary peak of SP is in agreement with experimental data, which show shorter sleep latencies in the early afternoon」とし、同じ時刻に仮眠をとりやすくなることなども挙げています。著者らは、昼食後の低下が食事の結果ではないことを示唆する研究として、Carskadon(注釈2)、Monk(注釈1)、Stahl(注釈6)などを挙げています。著者の所属には企業(Embla Systems、PAREXEL)が含まれますが、論文は企業の支援を受けた研究ではなく、利益相反はないとしています。 ↩
Wells AS, Read NW, Idzikowski C, Jones J. Effects of meals on objective and subjective measures of daytime sleepiness. Journal of Applied Physiology. 1998;84(2):507–515(要旨と方法の該当箇所で確認)。イギリスのシェフィールド大学の研究です。男女各8人の16人が、脂肪の多い食事と炭水化物の多い食事(同じエネルギー量)を4時間おきに順番を入れ替えて食べ、2時間おきに眠気を測りました。時刻の影響と分けるため、半分の人は食事の時刻を2時間遅らせています。「There were no differences in sleepiness according to the composition of the meal」「Sleepiness in the Multiple Sleep Latency Test was significantly greater 1.5 h after the meals were eaten than before」「The results suggest that the meals induced an enhancement in sleepiness that was not solely due to circadian rhythms」。 ↩
Stahl ML, Orr WC, Bollinger C. Postprandial sleepiness: objective documentation via polysomnography. Sleep. 1983;6(1):29–35(要旨のみ確認)。健康な15人が、食事をとる日ととらない日を順番を入れ替えて過ごし、食後20分(とらない日は同じ時刻)に仮眠しました。「Sleep onset latency after the meal was not significantly different from that obtained under the no-meal condition」「Only five subjects showed a decrease in sleep onset latency postprandially (1-11 min)」。著者らは「postprandial sleepiness is not an invariable consequence of meal ingestion」とし、空腹の程度、食事の量や中身などが関わるようだとしています。研究を行った国は要旨から確認できませんでした。 ↩
Reyner LA, Wells SJ, Mortlock V, Horne JA. 'Post-lunch' sleepiness during prolonged, monotonous driving - effects of meal size. Physiology & Behavior. 2012;105(4):1088–1091(要旨のみ確認)。イギリスのラフバラ大学の睡眠研究センターの研究です。前の晩の睡眠を5時間にした若い男性12人が、よく似た2種類の昼食(要旨の表記で「'light': 305 cal vs 'heavy': 922 cal」)を、どちらかわからない形で別の日に食べ、2時間の単調な運転を模擬装置で行いました。「The heavy lunch caused significant increases to both incidents and EEG power, and a trend for greater subjective sleepiness」。運転を始めて少なくとも30分は昼食による差がなく、その後に差が現れたとしています。冒頭で「The 'post-lunch' dip is a bi-circadian phenomenon, largely unrelated to lunch, and worsened by a disturbed prior night's sleep」としています。 ↩1 ↩2