平日の睡眠不足は、週末に取り戻せる?
平日は眠る時間が短くなり、そのぶん休みの日に長く眠る。そんな週末のあと、「足りなかった分は取り戻せたのかな」と思うことはありませんか。
ここでいう「寝だめ」は、先に眠りをためておくことではなく、足りなかった睡眠を、休みの日に長く寝て補うことです。厚生労働省の解説も、この意味で使っています。12
その解説によると、寝だめで一時的に眠気が解消されても、睡眠不足の悪影響をすべて解消することはできません。では、寝だめで軽くなる影響と、残る影響には、どんな違いがあるのでしょう。足りない睡眠が積み重なる「睡眠負債」という考え方から、順に見ていきます。2
睡眠負債は、必要な睡眠に足りない分の積み重ね
長く続く睡眠不足は、「睡眠負債」と呼ばれることがあります。足りない睡眠を、たまっていく借金にたとえた言葉です。3
では、何に対して「足りない」のでしょう。日本の研究では、その人に必要な睡眠時間と、ふだんの睡眠時間との差を「潜在的な睡眠負債」として調べています。たとえば、体が必要とする睡眠が8時間の人が毎晩7時間眠っていれば、1時間の差が毎日続いていることになります。4
この研究では、健康な若い男性15人が、12時間まで寝床にいられる夜を9晩続けました。初日は平均で約10.6時間眠り、その後は短くなって、4晩目ごろに落ち着いています。この経過から求めた必要な睡眠時間は、平均で約8.4時間。ふだんの自宅での睡眠は約7.4時間で、差は約1時間でした。必要な時間は人によって違い、約7.3時間から約9.3時間まで幅がありました。4
差は約1時間。これが「潜在的な睡眠負債」
Kitamura ほか(2016)の、健康な若い男性15人の平均です。棒は0時間から同じ縮尺で描いています。差は人によって違い、−0.58時間から2.73時間まで幅がありました(注釈4)。
この15人は、ふだんの睡眠を足りていると感じていました。厚生労働省の解説にも、睡眠不足が長引くと、むしろ眠気を自覚しにくくなるとあります。つまり、睡眠負債は「眠い」という感覚だけでは測りにくいもの。寝だめの効果を知るには、眠気とそれ以外の変化を分けて見る必要があります。42
寝だめで眠気が軽くなっても、作業の成績は戻らなかった
寝だめの前後を、実際に測った研究があります。アメリカの研究では、18〜34歳の30人が実験室に泊まり、寝床で過ごす時間を8時間にした夜を4晩、6時間にした夜を6晩、そのあと10時間にした夜を過ごしました。少し足りない睡眠が平日に続き、週末に長く眠る、という形です。5
6時間の夜が続いたあとには、日中の眠気が強まりました。10時間の夜を2晩過ごすと、眠気は元の水準に戻っています。測ったのは、本人が感じる眠気と、日中に横になってから眠りに入るまでの時間です。5
一方、反応の速さや見落としの数を測る課題では、違う結果でした。著者らは、6時間の夜のあとに落ちた成績が、10時間の夜を2晩過ごしても改善しなかったと報告しています。5
眠気が消えたと感じることと、睡眠不足の前の状態に戻ることは、同じではないようです。
寝だめのあと、また睡眠不足になると?
では、平日の睡眠不足と週末の寝だめを繰り返すと、どうなるのでしょう。アメリカの別の研究では、健康な若い成人36人を3つのグループに分けました。毎晩9時間まで眠れるグループ、毎晩5時間までのグループ、そして平日は5時間まで、週末は好きなだけ眠り、そのあとまた5時間の夜に戻るグループです。6
週末に好きなだけ眠ったグループは、金曜と土曜の夜に、実験前より合わせて約3時間多く眠りました。それでも、平日に失った12時間以上の睡眠を、同じ時間だけ取り戻したことにはならなかったと、著者らは書いています。6
体の変化も調べられました。その一つが、血糖を下げるホルモンであるインスリンの効きやすさです。毎晩9時間まで眠れたグループでは、変わりませんでした。週末に寝だめをしたグループでは、5時間の夜に戻ったあと、インスリンの効きやすさが実験前より約27%下がっています。著者らは、週末に長く眠る利点は一時的だと述べています。6
時刻のずれも測られています。夜に眠りを促すホルモン、メラトニンが出始める時刻は、遅く寝て遅く起きる週末を過ごしたあとの月曜に、実験前より約1.7時間遅くなっていました。働く日と休みの日で眠る時刻がずれることは、研究では「社会的時差ぼけ」と呼ばれています。著者らは、この体内時計の遅れを、その考え方と一致するものとしています。67
10時間の夜を2晩過ごすと、元の水準に戻った
6時間の夜を6晩続けたあとに比べた結果(注釈5)
10時間の夜を2晩過ごしても、改善しなかった
反応の速さや見落としの数を測る課題(注釈5)
5時間の夜に戻ったあと、実験前より約27%下がった
平日は5時間まで、週末は好きなだけ眠ったグループ(注釈6)
週末のあとの月曜に、実験前より約1.7時間遅くなった
遅く寝て遅く起きる週末を過ごしたあと(注釈6)
眠気と作業の成績は長く眠ったあと、インスリンの効きやすさは再び睡眠を短くしたあとに測定。メラトニンは週末のあとの月曜に測っています(注釈5・6)。
これらは、数十人の健康な若い成人が、実験室で1〜2週間を過ごした結果です。年齢や体の状態が違う人でも、何か月も続く暮らしの中でも同じことが起こるかは、これらの研究からはわかりません。
眠気が軽くなっても、睡眠不足の影響は残ることがある
10時間の夜を2晩過ごした研究では、眠気は軽くなったものの、作業の成績は改善しませんでした。一方、寝だめのあとに再び睡眠を短くした研究では、インスリンの効きやすさが実験前より低下していました。こちらは、寝だめ直後の回復ではなく、その後の睡眠不足も含めた結果です。
厚生労働省も、慢性的に睡眠不足の人が休日に2時間以上寝だめをしても、完全に睡眠不足を取り返すことはできないと説明しています。1
「たくさん寝たから、もう大丈夫」と感じても、眠気だけでは、作業の成績や体の変化まで回復したかはわかりません。寝だめで眠気が軽くなることと、睡眠不足の影響がすべて解消することは別なのです。週末にどれだけ眠ったかだけでなく、その前後の睡眠も含めて考える必要があります。
眠気が消えても、睡眠不足の影響がすべて消えたとは限らない。
注釈・出典
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厚生労働省 スマート・ライフ・プロジェクト「寝ても疲れが取れないなら要チェック!あなたの睡眠の質 大丈夫ですか?」(HTML本文で確認。ページに日付の記載はありません)。厚生労働省が令和6年2月に発表した「健康づくりのための睡眠ガイド2023」にもとづく解説です。睡眠ガイド2023の本体はPDFのため、このHTMLの解説で確認しました。働く世代の項に「平日の睡眠不足を休日の寝だめで補おうと考える人も少なくないでしょう」「平日に、慢性的に睡眠不足である人が休日に2時間以上寝だめをしたとしても、完全に睡眠不足を取り返すことはできません」とあります。夜に睡眠を促すホルモンとしてのメラトニンの説明も、このページによります。 ↩1 ↩2
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厚生労働省 e-ヘルスネット「昼間の眠気 – 睡眠不足だけではなく睡眠・覚醒障害にも注意が必要」(三島和夫、2025年6月1日更新。HTML本文で確認)。「睡眠不足」の項に「数日程度の睡眠不足では眠気をはっきりと自覚できますが、睡眠不足が長引くと、むしろ眠気を自覚しにくくなることが明らかになっています」「いわゆる寝だめによって一時的に眠気が解消されても、自律神経やホルモン分泌、代謝、認知機能など睡眠不足の悪影響をすべて解消することはできません」とあります。寝だめは、週末(休日)に長く眠ることとして書かれています。同じ項は、睡眠不足が長期間続いて生活に支障が出る状態を「睡眠不足症候群」と呼ぶこと、「疲労回復に必要な睡眠時間には大きな個人差があります」とも説明しています。このページは「睡眠負債」という言葉を使わず、「睡眠不足」と書いています。 ↩1 ↩2 ↩3
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広報誌「厚生労働」2025年3月号「良質な睡眠で心と身体を健康に」(HTML本文で確認)。厚生労働省健康課の担当者が聞き手となったインタビューで、筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構の柳沢正史氏が「長期的な睡眠不足を「睡眠負債」とよく言いますが、睡眠の借金が溜まってくると、身体的な病気のリスクが上がっていくことが知られています」と述べています。英語の sleep debt にあたる言葉です。注釈4の論文は冒頭で「Sleep loss (or sleep debt)」と、睡眠不足と並べて書いています。 ↩
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Kitamura S, Katayose Y, Nakazaki K, Motomura Y, Oba K, Katsunuma R, Terasawa Y, Enomoto M, Moriguchi Y, Hida A, Mishima K. Estimating individual optimal sleep duration and potential sleep debt. Scientific Reports. 2016;6:35812(全文で確認)。国立精神・神経医療研究センターの研究です。健康な若い男性16人が参加し、途中でやめた1人を除く15人(20〜26歳)を分析しました。自宅で約2週間、腕につける活動量計と睡眠日誌でふだんの睡眠を記録したあと、実験室で寝床にいる時間を12時間にした夜を9晩過ごしています。必要な睡眠時間(optimal sleep duration)は、9晩の睡眠時間の変化に当てはめた曲線が落ち着く値として求められ、「the difference between OSD and habitual sleep duration (HSD) at home represents potential sleep debt (PSD)」と定義されています。ふだんの睡眠は平均7.37時間(5.82〜8.89時間)、必要な睡眠時間は平均8.41時間(7.29〜9.26時間)、差は平均1.04時間(−0.58〜2.73時間)、1晩目の睡眠は平均10.59時間でした。経過について、考察は「reached standard OSD levels at E4, and leveled off」(E4は4晩目)、要旨は「only 1 h of PSD takes four days to recover to their optimal level」としています。考察には、睡眠負債をなくすには最大9日が必要という記述もあります。自覚については「they were experiencing possible sleep loss without being aware of it」。15人のうち2人は曲線が当てはまらず、9晩の平均が使われました。 ↩1 ↩2 ↩3
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Pejovic S, Basta M, Vgontzas AN, Kritikou I, Shaffer ML, Tsaoussoglou M, Stiffler D, Stefanakis Z, Bixler EO, Chrousos GP. Effects of recovery sleep after one work week of mild sleep restriction on interleukin-6 and cortisol secretion and daytime sleepiness and performance. American Journal of Physiology-Endocrinology and Metabolism. 2013;305(7):E890–E896(全文で確認)。アメリカのペンシルベニア州立大学医学部の研究です。ふだんよく眠れている健康な30人(男性16人・女性14人、18〜34歳)が実験室で13晩を過ごしました。寝床にいる時間は、はじめの4晩が8時間、次の6晩が6時間、最後の3晩が10時間で、回復後の測定は10時間の夜を2晩過ごしたあとに行われています。眠気は、日中に眠りに入るまでの時間を繰り返し測る検査(Multiple Sleep Latency Test)と自己評価(Stanford Sleepiness Scale)、作業の成績は Psychomotor Vigilance Task で測りました。眠気について、要旨は6時間の夜のあとに強まり、回復後に基準(8時間の夜のあと)へ戻ったとしています。本文の値では、回復後は眠りに入るまでの時間が基準より平均2.50分長く、自己評価の眠気も基準より低くなっていました。作業の成績について、要旨は「performance deteriorated significantly after restriction and did not improve after recovery」とし、結論で「complete performance recovery may require more than just 2 days」としています。課題の成績について、本文は見落としの数・反応時間の中央値・速い側10%の反応時間が6時間の夜のあとに有意に悪化したと書いていますが、表の値では、8時間の夜との差が有意なのは速い側10%の反応時間(P=0.03)で、見落としの数は P=0.08、中央値は P=0.07 です。10時間の夜のあとと6時間の夜のあとの差は、どの項目にもありませんでした(P=0.69〜0.92)。この研究は、炎症に関わる物質(インターロイキン6)が6時間の夜のあとに増え、10時間の夜のあとに元の水準に戻ったことも報告しています。制限をしないグループは置いていません。著者らは、睡眠不足と回復を毎週繰り返したときの長期の影響はわかっていないとしています。 ↩1 ↩2 ↩3
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Depner CM, Melanson EL, Eckel RH, Snell-Bergeon JK, Perreault L, Bergman BC, Higgins JA, Guerin MK, Stothard ER, Morton SJ, Wright KP Jr. Ad libitum weekend recovery sleep fails to prevent metabolic dysregulation during a repeating pattern of insufficient sleep and weekend recovery sleep. Current Biology. 2019;29(6):957–967(PMCで公開されている著者最終稿の全文で確認)。アメリカのコロラド大学の研究です。健康な成人36人(男女各18人、各グループの平均年齢は22.8〜27.4歳)が実験室で過ごしました。毎晩9時間まで眠れるグループが8人、毎晩5時間までのグループが14人、週末に回復睡眠をとるグループが14人です。週末のグループは、5時間までの夜を4晩過ごしたあと、金曜はふだんより約2時間遅く寝て、好きな時刻に起きました。週末には長く眠る機会が設けられ、昼寝も認められています。ただし、日曜夜は就寝時刻を自分で選べる一方、月曜の起床時刻は実験前より2時間早く設定されていました。そのあと5時間までの夜を2晩過ごしました。このグループの睡眠時間は、実験前の約8.1時間に対して金曜が約10.0時間、土曜が約9.2時間、日曜が約6.1時間でした。著者らは、週末の睡眠は「did not repay on an hour-by-hour basis the more than 12h of sleep lost during the workweek」としています。全身のインスリンの効きやすさ(insulin sensitivity)は、9時間のグループで変化がなく、5時間のグループで約13%、週末のグループで約27%下がりました。週末のグループの低下は、体重の変化を考慮した解析では、統計的な確かさの基準をわずかに満たしていません(P = 0.054)。夕食後に食べる量は、週末のグループでは週末に減り、5時間の夜に戻ると実験前より増えています。結論は「Our findings suggest that benefits of weekend recovery sleep are transient」。メラトニンが出始める時刻は、週末のグループで月曜に実験前より約1.7時間遅くなっていました。週末の前の平日(実験5日目)にも、約1.2時間の遅れが報告されています。「consistent with the concept of social jetlag」は、この遅れについての著者らの説明です。著者らは、週末に眠った長さの男女差などは人数が少なく探索的な結果であること、年齢の高い人や肥満・糖尿病のある人での研究が今後必要であることを書いています。 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4
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Wittmann M, Dinich J, Merrow M, Roenneberg T. Social jetlag: misalignment of biological and social time. Chronobiology International. 2006;23(1-2):497–509(要旨のみ確認)。ドイツのミュンヘン大学の研究者らによる、501人への質問紙調査です。要旨は「The discrepancy between work and free days, between social and biological time, can be described as 'social jetlag.'」としています。「社会的時差ぼけ」は social jetlag の訳語です。 ↩